保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

バイデン米大統領就任について(1) ~陰鬱な船出~

《米国の新政権が、これほどに沈鬱(ちんうつ)な雰囲気のなかで発足した事態があっただろうか。

 いつもであれば、就任式典は民主主義の原点を確認する祝祭の場だった。国際社会は超大国の新リーダーの言葉に、世界の針路を見いだそうとした。

 その米国が今、コロナ禍に加え、国内の著しい分断と威信の低下にあえいでいる。

 トランプ政権が去っても、国内外に山積する難題は変わらぬまま、見通しは立たない。

 合衆国の再統合と、国際秩序を再生する指導力を発揮できるか。ジョー・バイデン大統領が波乱含みの船出を迎えた》(1月21日付朝日新聞社説)

 各紙社説を見ても、祝祭的な雰囲気は感じられない。これほど陰鬱な船出もまた珍しい。

《バイデン大統領が直面する最大の課題は、人種対立や経済格差によってもたらされた米国内の分断をどう和らげるかだ。

大統領選には勝ったが、トランプ前大統領も敗者として過去最多の7400万票を獲得した。就任式演説で「私を支持しなかった人のためにも懸命に戦う」と訴えたが、国論をまとめていくのは容易ではないだろう》(1月21日付日本経済新聞社説)

 二大政党制の米国は、一定の振れ幅の中で政権交代が行われてきた。が、今回の交代劇は、振り子の糸が切れてしまったかのような、まさに「分断」と呼ぶのが相応しく思われもした。

《国民の3分の1はバイデン氏を正統な大統領と認めていない、という調査結果もある》(同、朝日社説)

 飛行機に喩えれば「片肺飛行」での出だしとなってしまったということである。

《民主主義の規範をかき乱した前政権の後だけに、穏健なバイデン氏が消極的に選ばれた、という側面も否めない》(同)

 トランプ氏再選だけはどうしても阻止しなければならないという消極的理由でバイデン氏が大統領になったのだとすれば、「分断」が修復される可能性もまた低いと考えざるを得ない。

《副大統領や長い議会経験などは確かに強みになろう。だが、直面する諸課題は、過去の踏襲で対処できるものではない。むしろ、歴代政権の間に社会の深層に沈殿してきた問題に光をあてる作業こそが求められる。

 産業構造の転換で細った中間層の厚みをどう取り戻すか。米国の強みだった寛容な移民政策をどう支え、社会の活力や技術革新を強めていくか》(同)

 こういった課題を克服するためには米国が一枚岩となって事に当たる必要がある。が、「分断」が続く限りその見込みはない。

《格差を放置していては、トランプ的ポピュリズムの再来を防ぐことはできないだろう。様々な分断を克服する包摂力のある統治が求められる》(同)

 米国は「格差」の上に成り立ってきた社会である。つまり、米国社会で問題なのは「格差」ではないということである。そもそも「ポピュリズム」とは何かという問題もあるが、「格差」にばかり目を奪われてしまっては事の本質を見失うだろう。

 やはり問題は、米国がかつてのような世界に冠たる圧倒的な力を失ってしまったということにある。そのことから目を背けては問題解決することなど出来ないということである。【続】