保守論客の独り言

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地上イージス配備計画停止について(3) ~敵基地攻撃能力~

安倍首相は<地上イージス>に代わる最強の札を切ってきた。「敵基地攻撃能力」である。

安倍晋三首相が18日の記者会見で、敵のミサイル発射基地を攻撃し、発射を抑止する「敵基地攻撃能力」の保有を検討する意思を示したのは、北朝鮮など周辺国のミサイル技術が高度化する中、迎撃能力に頼るだけでは対処しきれない恐れが強いからだ。保有すれば抑止力のあり方が根本的に見直され、「専守防衛」の方針は守勢的から攻勢的なものへと大転換する》(産経ニュース 2020.6.19 21:14)

 敵基地攻撃能力は「抑止力」の意味もあれば、正当防衛としての「反撃力」の意味合いもある。

《政府は敵基地攻撃能力について「他に手段がなければ自衛の範囲で、憲法上認められるが、政策上保有しない」と解釈している。首相もこれを引き継いできたが、記者会見では「日本に撃ち込むのはやめた方がいいと(敵に)考えさせるのが抑止力」と語った。政府幹部は「撃てば自分がたたかれると思わせる能力の保有を念頭にした発言だろう」とみる。イージス・アショア計画停止を受け、自民党内でも保有論が再燃している》(同)

 <敵基地攻撃能力>とは仰々しい言葉だが、どこの国も普通に有しているごく当たり前の能力である。憲法の制約で日本がこの能力を封印してきたことがむしろ異常なのである。現状であれば、いくら敵国が日本に向けてミサイルを撃ち込もうが反撃出来ない。「専守防衛」とはそういうことだ。が、

《戦後、鳩山一郎内閣は「座して死を待つべしというのが憲法の趣旨とは思えない」と、必要最小限の敵基地攻撃は可能との見解を示した。歴代の政権はこれを踏襲する一方、専守防衛の観点から実際の保有は否定してきた》(6月20日付信濃毎日新聞社説)

という経緯もある。そこで安倍首相は、これまでの「専守防衛」を<敵基地攻撃能力>を持った「攻勢的専守防衛」に転換できないかと改めて問題提起したのである。<地上イージス>批判に胡坐(あぐら)を掻いていた人たちにはまさに「寝耳に水」であったろう。

 実は、産經新聞が前日に呼び水的主張を行っていた。

ミサイル防衛という、相手の攻撃を払いのける「拒否的抑止力」は必要だが、それだけでは国民を守れない点を忘れたくない。対日攻撃を独裁者にためらわせる「懲罰的・報復的抑止力」はコストに見合う防衛力の一種だ。その保有のため防衛大綱を改定し、侵略国のミサイル発射基地・装置を叩(たた)く敵基地攻撃(反撃)能力の本格的整備に乗り出すときである》(6月17日付産經新聞主張)

 この主張が安倍首相にどのような影響を与えたのかは分からない。が、少なからず安倍首相を後押ししたことは確かであろう。

自衛隊は宇宙やサイバー空間にも進出しつつある。攻撃と防衛の境を越えて米軍との一体化が深まるほど、日本の安全が脅かされることにならないか》(同、信毎社説)

 むしろ日米同盟が堅固(けんご)でなければ東アジアの安全は守れない。問われるのは、日本が主体的に責任もって平和構築に貢献するのかどうかである。【了】