保守論客の独り言

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8月15日「終戦記念日」社説を読む(11)東京新聞その2

時の権力機構は耳を貸さなかった。東条英機陸相は「戦は計画通りにいかない。君たちの考えは、意外裡(り)の要素が考慮されていない」と評したといいます。(東京新聞社説)

 東條は、実際には、次のように言っている。

「諸君の研究の労を多とするが、これはあくまでも机上の演習でありまして、実際の戦争というものは、君たちの考えているようなものではないのであります。日露戰争でわが大日本帝国は、勝てるとは思わなかった。

しかし、勝ったのであります。あの当時も列強による三国干渉で、止むにやまれず帝国は立ち上がったのでありまして、勝てる戦争だからと思ってやったのではなかった。戦というものは、計画通りにいかない。意外裡なことが勝利につながっていく。

したがって、君たちの考えていることは、机上の空論とはいわないとしても、あくまでも、その意外裡の要素というものをば考慮したものではないのであります」(「日本人はなぜ戦争をしたか 昭和16年夏の敗戦」:『日本の近代 猪瀬直樹著作集8』(小学館)、p. 163)

 東條が言っているのは、実際の戦いには、想定外のことが起こるものであって、想定実験だけでは開戦に踏み切るべきか踏みとどまるべきかは判断できないというごく当たり前のことを言っているに過ぎない。が、

《報告を聞いた東條の感想は、当時の指導部を覆う「空気」を表している》(2022年8月17日付読売オンラインWebコラム:「日本必敗」の警告はなぜ見過ごされたのか…終戦77年の夏に考える「総力戦」の危うさ)

などと頓珍漢(とんちんかん)なことを言う人もいる。日本と米国では国力の違いは圧倒的である。当然、日本は圧倒的に不利な状況にある。が、世界情勢は時々刻々と変化するものであり、欧州戦争がどのように決着するのかによっても、話は随分と変わってこよう。また、実戦は、必ずしも想定通りに進むものではなく、想定外の出来事がしばしば起こる。そういったことを総合的に判断することが必要だと東条は言っているに過ぎないのである。山本七平『空気の研究』よろしく「場の空気」のようなものが東条にそのように言わしめたかのように言うのは、やはり的外れと言うべきであろう。

 東條は、戦争をしたいがためにこの想定実験に従わなかったのではない。できれば対米戦は回避したい。そのために日本は、対米交渉を実際ぎりぎりまで続けている。日本との交渉を一切拒否し、最後通牒ハルノート」を突き付けてきたのは米国の側である。つまり、東条が戦争を欲していたかのように言うのは偏見だということだ。

 

(参照)2020年8月27日付はてなブログ『保守論客の独り言』:「戦後75年の終戦の日を迎えて(2)~東条が退けた机上演習~」