保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

サナエノミクスについて(2) ~「第2の矢」に欠けているインフラ投資~

《『アベノミクス』の第2の矢「機動的な財政出動」は、デフレ脱却のためのマクロ経済政策を担う需要拡大のためのものでした。残念ながら、財務当局がこだわった「PB(プライマリー・バランス=基礎的財政収支)黒字化目標」の下、結果的には緊縮財政を継続せざるを得ない結果となり、物価安定目標の達成を困難にしました。

『サナエノミクス』の第2の矢「緊急時に限定した機動的な財政出動」は、あくまでも災害、感染症、テロ、紛争、海外の景気低迷などの要因による「緊急時の迅速な大型財政措置」に限定することとします》(高市早苗「【わが政権構想】日本経済強靭化計画」:月刊Hanadaプラス20210903日 公開)

 積極的財政出動には多大な原資が必要となり、間違いなく財政問題が再熱する。これを避ける意味で財政出動を<緊急時>に限定しているのだと思われる。

 小泉政権から無駄な公共事業を無くせという世論が高まり、公共に資するはずの投資すらが絞られてしまった。が、これは「市場」にしか目が行っていない浅見短慮である。

 「市場」を成り立たせるためには、その基礎たる「インフラ」がしっかり整備されていなければならない。が、この「インフラ」は公的なものであって、自由市場に任せることはできない。

《経済的インフラとして、(1)資源・エネルギー、(2)通貨・信用。政治的インフラとして、(3)危機管理・国策決定、(4)決断力・説得力。社会的インフラとして、(5)家族・環境、(6)都市・田園。最後に文化的インフラとしての(7)学校・教育、(8)研究・開発。つまり、全部で「インフラの八柱」が市場を支え囲み方向づける》(西部邁国民の道徳』(産経新聞社)、p. 533


(詳しくは、『国民の道徳pp. 528-537を参照のこと)

 市場は、その前提として国が「安全」でなければならない。故(ゆえ)に、「国防力」と「警察力」の整備が不可欠である。台湾有事や朝鮮半島有事において、自衛隊がどこまで活動するのかという問題もあるが、国防には独り弾丸やミサイルが飛び交う「熱戦」だけではなく、「サイバー戦」や「情報戦」といったものもある。国防費を抑え込んだままでは、サイバーテロ攻撃に対処できないし、国際社会に向けて正しい情報を発信することも出来ない。

 「安定」もまた重要な要素である。エネルギーが安定供給されねば困るし、為替相場も安定的であるべきだ。インフラが安定していればこそ経済活動の見通しが立つ。「脱炭素」ということでエネルギー供給が不安定になったり、電気料金が高騰するようなことは避けなければならない。

 また、円滑なる経済活動には生産者であれ消費者であれ価値観の「共有」が欠かせない。その意味で「教育」は重要だ。昨今「主体的・対話的で深い学び」などと言われるけれども、本来的な教育の目標は「日本人の育成」である。ただ日本に生まれ育てば日本人になるのではない。日本人としての価値観を共有してこその日本人である。

 慣習の「継承」も重要である。家族や地域社会の枠組みのみならずその内実が変容してしまっては「市場」はうまく機能し得なくなる。慣習の体系としての皇室の存在も大事である。万世一系の皇統は日本の歴史を背骨のように貫いている。皇室の伝統を如何に守るのかを考えることは、我々が今を如何に生きるのかを考えることに通底する。【続】