保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

自民党総裁選:読売社説(1) ~批判するのが偉いのか~

《安倍前内閣の経済政策「アベノミクス」のどこを引き継ぎ、どこを変えるかが争点の一つだ》(9月22日付読売新聞社説)

 気になるのは、社説子自体が「アベノミクス」をどのように評価しているのかが見えないことである。「アベノミクス」は看板としては「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の3本の矢ということになっているが、実質は金融緩和しか機能していない。これを「アベノミクス」と固有名詞化して呼ぶことは甚だ疑問である。

 株価、有効求人倍率、失業率といった数字は改善されたとしても、3本の内2本の矢は機能しなかったのであるから、「アベノミクス」は上手く行かなかったと考えるのが妥当であろう。「アベノミクス」を総括し、新たな経済政策を考えるのならまだしも、「アベノミクス」を基準にして経済政策を考えるようでは二の舞を演じることになるのではないかと懸念される。

河野太郎行政・規制改革相は、アベノミクスでは働き手の給与が伸びなかったと指摘し、賃金を引き上げた企業への減税制度を拡充させる考えを強調した》(同)

 働き手の給与が伸びなかったのは「アベノミクス」の直接的問題ではない。働き手の給与が伸びないのは、経済構造が低賃金によって利潤を出す方式になっているからである。金融緩和によって円安となり、他国と低賃金労働競争となった。私は、円高のまま付加価値の高い経済構造への転換を図るべきだという立場であったが、「アベノミクス」によって旧態依然たる構造から抜け出せなくなってしまった。そのことが働き手の給与が上がらない根本的な原因だと思われる。

岸田文雄・前政調会長も路線の修正を打ち出し、市場での競争を重視する新自由主義からの転換を掲げた。所得再分配で格差を是正するとし、看護師や保育士らの賃金アップなどを図る意向だ》(同)

 果たして安倍政権は<新自由主義>だったのか。<新自由主義>だったのなら、どうして「一億総活躍社会」だの「働き方改革」だのといった社会主義的政策を推し進めようとしたのか。が、岸田氏のように所得の再分配によって格差を是正するなどと言えば、それこそ「社会主義」ということになる。

高市早苗・前総務相アベノミクスを加速させ、先端技術への投資を強化するという》(同)

 高市女史は、本当に<アベノミクスを加速させ>ると言っているのだろうか。だったら独自の経済政策「サナエノミクス」は不要であろう。「アベノミクス」は基礎的財政収支primary balance)に拘(こだわ)ったため十分な財政政策がとれなかった。だから、インフレ率が2%になるまでは財政再建は凍結し、積極的投資を行うというのが高市女史の経済政策の肝(きも)である。また、<先端技術への投資を強化する>というのも誤りで、危機管理に特化した投資と言っている。

《どの候補の主張も、その効果や実現性に疑問符の付くものや、具体的に何をすべきかという方法論に欠ける内容が多い》(同)

 他の候補はそうなのかもしれないが、高市女史の主張は実に具体的である。高市女史を貶(おとし)めたいからこのように書くのかもしれないが、公正さを欠くと言わざるを得ない。

 否、このように書く社説子は、どれだけの「観察眼」を自分がお持ちだと思っておられるのだろうか。批判に値する見識を自ら示すのが最低の礼儀であり、それでこその「社説」ではないのだろうか。【続】