保守論客の独り言

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サナエノミクスについて(3) ~第2の矢と第3の矢が不分明~

《『アベノミクス』の第3の矢「民間活力を引き出す成長戦略」は、規制緩和などで創意工夫を促進し、より生産性の高い産業・企業に生産要素(労働・資本)が流れやすいようにして経済全体の生産性を向上させようとする「改革」が主でした。

働き方改革農政改革、電力・ガス小売全面自由化、貿易自由化などが、安倍内閣の成果として象徴的でした。今後も、十分なセーフティネットを前提に、真に必要な「改革」については、個別の法制度整備によって対応を続けるべきであることに変わりはありません。

『サナエノミクス』では、第3の矢「大胆な危機管理投資・成長投資」が、大規模な財政出動や法制度整備を伴うものであり、重要な位置付けとなるのです》(高市早苗「【わが政権構想】日本経済強靭化計画」:月刊Hanadaプラス20210903日 公開)

 第2の矢と第3の矢が不分明である。第3の矢を<投資>として括(くく)っているのであるが、<投資>は第2の矢・財政出動に分類されるべきものである。その意味で、<財政出動>と<成長戦略>で区分けしたアベノミクスの方がずっと分り易い。

《「危機管理投資」とは、自然災害や疾病、サイバー攻撃や機微技術流出を含む経済安全保障上の課題、テロ、国防上の脅威など様々な「リスクの最小化」に資する研究開発の強化、人材育成、安全と安心を担保できる製品・サービスの開発や社会実装、重要物資の調達などに資する財政出動や税制措置を行うこと。

「成長投資」とは、日本に強みのある技術分野をさらに強化し、新分野も含めて、研究成果の有効活用と国際競争力の強化に向けた戦略的支援を行うことです。

「危機管理投資」によって世界共通の課題を解決できる製品・サービス・インフラを生み出すことができた場合には、国際展開を行うことによって「成長投資」にもなるのです》(同)

 何を以て「成長」分野とするのか、その基準がなければ、依怙贔屓(えこひいき)と呼ばれかねない。否、そんな基準を明示することなど不可能事であろうから、特定の分野を贔屓すると言っているに等しいことになる。

 例えば、「グリーン・リカバリー」は成長分野なのだろうか。世の中が「脱炭素」に傾いていることをもって地球温暖化防止にかかわる分野を成長分野とするのには疑問がある。ここには成長分野を見極める能力が自分たちにはあるという「知的驕(おご)り」が見え隠れする。

 「投資」とは何が当たるのかが分からないものとして広くなされるべきものである。予(あらかじ)め当たる分野を想定して集中投資するようなやり方は「計画主義」的であり左翼の発想である。

《真に力強い経済を目指すためにはインフレ率3%以上が理想ですが、先ずは物価安定目標であるインフレ率2%を達成するまでは、時限的に「PB規律」を凍結して、戦略的な「大胆な危機管理投資・成長投資」に係る財政出動を優先する》(同)

 詰まる所、高市早苗女史の経済政策とは、インフレ率が2%になるまでは赤字国債を出すことも厭(いと)わず、積極的な危機管理投資を行うということになろうかと思われる。【了】