経済評論家の藤巻健史(ふじまき・たけし)氏は言う。
《政府は大規模な財政出動で経済の悪化を食い止めようとしており、個人も企業もお金をもらうことを考えている。国債を発行して財政出動をするなら、本来は将来の増税を考えないといけない。国債は将来の税収を前借りする「借用書」で、政府が税金で絶対元本を返すから信用される。借金を返さないのであれば、誰も貸してくれなくなる。東日本大震災を受けて復興増税が導入されたが、今回はもっと大きい負担増があるはずだ。増税は景気の足を引っ張るので、V字回復はより難しくなる》(「日銀破たん後、ハイパーインフレになり、日本経済は復活する」:AERA dot. 2020.5.16 10:30)
MMT(現代貨幣理論)を「ブードゥー(呪術)経済学」と罵(ののし)る藤巻氏であるからこう言うのも仕方のないことだろう。
藤巻氏はエコノミストというよりもトレーダーである。理屈が整理されておらず思い付きで適当なことを言っているだけの印象が強い。
MMTを「ブードゥー経済学」と考える氏の根拠が分からない。提示するのは反MMT派の意見だけである。藤巻氏は、MMTに対する反論として、ローレンス・サマーズ元米財務長官の発言を例に引く。
「幾つもの途上国が経験してきたようにそうした手法はハイパーインフレを引き起こす。インフレ税を通じた歳入増には限界があり、それを超えるとハイパーインフレが発生する」(「MMT理論と異次元緩和は同じ理論(臨時版)」: 2019年05月06日付藤巻プロパガンダ)
出典を確認しておこう。
contrary to the claims of modern monetary theorists, it is not true that governments can simply create new money to pay all liabilities coming due and avoid default. As the experience of any number of emerging markets demonstrates, past a certain point, this approach leads to hyperinflation. Indeed, in emerging markets that have practiced modern monetary theory, situations could arise where people could buy two drinks at bars at once to avoid the hourly price increases. As with any tax, there is a limit to the amount of revenue that can be raised via such an inflation tax. If this limit is exceeded, hyperinflation will result. ― The Washington Post, March 5, 2019 at 10:07 a.m.
(現代貨幣論者の主張に反し、政府が満期となるすべての負債を支払ってデフォルトを回避するために造作なく新しいお金を生み出すことができるというのは真実ではない。幾つもの新興市場の経験が実証するように、ある時点を過ぎると、このやり方はハイパーインフレを引き起こす。確かに、現代貨幣理論を実践してきた新興市場では、人々がバーで2つの飲み物を一度に購入して、度重なる価格上昇を回避できる状況が発生する可能性はある。いかなる税金もそうであるように、そういったインフレ税によって調達できる歳入額には限度がある。この限度を超えると、超インフレになる)
確かに<限度>を越えればハイパーインフレにならないとも限らないが、現在日本はデフレ真っ只中にある。このような状況の中で、超インフレを心配して貨幣供給を躊躇するのは杞憂(きゆう)に過ぎるだろう。
逆に、貨幣供給量が不足してきたからこそデフレになっているとも言えるわけで、コロナ禍の危機を脱するためにも必要十分な貨幣供給を行うべきである。【続】