御厨貴(みくりや・たかし)東大名誉教授は言う。
《論戦で期待するテーマは(1)新型コロナウイルス問題の解決(2)経済社会の立て直し(3)厚生労働省を中心とする機構改革――の3つだ》(日本経済新聞2021年9月7日 2:00)
が、どうして今回の総裁選の主題がこの3つなのかが分からない。目を向けるべきは国内だけではないはずだ。
台湾有事が起これば日本はどう対処するのか。今の法律体系ではやれることは限られてしまう。勿論、根本は憲法問題であり、改正には時間が掛かる。が、時間が掛かればこそ早く議論に入らなければならないのである。
台湾がシナのものとなれば台湾海峡の航行に支障が出かねない。さらに、台湾の次は尖閣、沖縄となることは想像に難くない。中国軍事評論家は、日本を「核の先制不使用」の例外にせよと主張してもいる。
日本、米国、オーストラリア、インドの首脳や外相による安全保障や経済を協議する枠組みQUAD(クアッド)やTPP(環太平洋貿易協定)をどう活用し発展させるのかということも重要である。
《どうコロナと向き合い、感染拡大を抑えていくか。道筋を具体的に示すべきだ。楽観論では済まされない》(同)
御厨氏は「ゼロコロナ派」なのであろう。が、コロナウイルスは日々変異し続けている。にもかかわらず、<道筋>を具体的に示せると思っているところが「能天気」である。
《収束後の日本の経済社会のあり方を示す必要がある。経済浮揚策は切迫した課題だ》(同)
<経済社会>というものが今一つぴんと来ない(Google検索してみると、<経済社会>89件、<社会経済>584万件であった)。
コロナ禍で傷んだ経済を立て直すことは必要であっても、それは必ずしも<経済浮揚策>というような形のものでなくてよい。それより問題なのは、「財政再建」をどう考えるのかということである。MMTよろしくインフレが過熱しない限り政府の借金が膨らんでも問題ないとするのか、政府の借金が膨らまないよう増税も視野に入れるのかで話は全然異なってくる。正直、財政再建派の経済浮揚策というのがどういうものか見てみたいものである。
《機能不全に陥っているのがはっきりした厚労省改革の議論も急務だ。これからも感染症がはやる恐れはある》(同)
まず反省すべきは省庁再編によって厚労省が管理できないほど肥大化してしまったということである。ただでさえ拡大せざるを得ない厚生省に労働省をくっつけたのはやはり間違いだった。
御厨氏は厚生省の何を改革すべきだと思っているのだろうか。勿論、改革すべきところがあるに違いない。が、私が気になるのは、政治家主導を目指して、大臣の下に副大臣、政務官を置いているにもかかわらず、これが十分に機能しているとは思われないことである。
厚生省の何が問題なのか、何をどう直せばよいのかがもっと明るみに出されても良いはずだ。話はそれからなのではないか。【続】