《当時を知る人びとの証言が、貴重な価値をもつのは論をまたない。しかし、個々の体験の証言を取り上げるだけでは歴史の全体像は把握できない》(7月9日付朝日新聞社説)
これはその通りだ。このことが分かっていたなら、「従軍慰安婦」の虚報はなかったはずだ。虚偽の報道を反省してこのように言っているのなら意味があるが、朝日の言っている<証言>と<歴史の全体像>は、自分たちの都合のよいものを取捨選択しているようにしか思われない。
《朝鮮半島出身者の労務動員に暴力を伴うケースがあったことや、過酷な労働を強いたことは当時の政府の公文書などで判明しており、日本の裁判でも被害事実は認められている》(同)
が、これは「嘘」である。産業遺産情報センターの加藤康子センター長は言う。
「社説を見た元端島島民より、『えっ! 政府が端島への労務動員時の暴力や島での強制労働を認めた公式文書や裁判記録があるの?』とお問い合わせがありました。というのも、社説は戦時中朝鮮半島出身者への虐待がなかったという元島民の証言の信頼性を、根本から否定する文脈で書かれているからです。
センター開設にあたり、私たちは夥しい量の一次史料に目を通してきました。しかし、朝鮮半島から端島への労務動員で、《暴力を伴うケース》や、端島での業務で《苛酷な労働を強いた》ことを報告する公文書も、国内裁判事例も、見たことがありませんでした。
そこで7月9日付で朝日新聞の社説がこのように書いた根拠を示してもらうために、質問状を送ることにしました。《公文書》と《裁判》という記述の根拠について、ご教示を依頼するものです」(「朝日「軍艦島の徴用工」社説に疑義あり 女性センター長が質問状を出した根拠」:2020年7月25日掲載 週刊新潮)
朝日新聞からの回答は次の通りであった。
《読者からのご意見ご感想や取材対象・関係者からの問い合わせ等について、本社は社外に公表することは原則として致しません。貴誌は7月9日付社説の根拠についてお尋ねされておられますが、社説に記述しました通りです。日本各地で労務にあたった朝鮮半島からの労働者につきましては、さまざまな公文書などが存在し、研究発表もなされているところです。よろしくお願い申し上げます》
根拠が提示できないということは根拠がないと言っているのと同じである。さらに、軍艦島の件とは関係のないことにまで話を広げて根拠があるかのように擬装しようとするのは悪質である。が、これもまた批判されるのをおそれて具体的には書かない。
「元島民たちも弁護士を通して、当時、端島炭鉱の経営にあたっていた現在の三菱マテリアルに『端島炭鉱(軍艦島)等に関する事実確認の申入書』を7月10日付で送付しました。申入書で、『朝鮮半島出身者に対する暴力や虐待、差別的な扱い、苛酷な強制労働を強いたといった被害を訴える裁判の被告となったこと、被害が認定された裁判が存在する事実はありますか?』と調査を依頼したのです」
7月13日付三菱マテリアルからの「事実関係の回答書」は、案の定
《弊社が国内裁判で被告となっている事例はございません》(同)
であった。【了】