保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

安倍外交を総括する(3) ~安全運転政権~

安倍晋三首相が再登板した時、安全保障環境は、第1次政権のころと様変わりしていた。中国は世界第2位の経済大国になり、軍拡と海洋進出の動きを強めていた。大国化する中国にどう向き合うかが、政権の最重要課題となった。

 このため、首相は保守的なイデオロギー色を封印するようになった。全体として見れば、「実利優先のリアリズム外交」が安倍外交の特徴といえる》(9月3日付毎日新聞社説)

 この分析は的を外している。第2次安倍政権は安全運転志向だっただけであって、アベノミクスを打ち出したのも外交安全保障問題よりも国内の経世済民を優先したからである。

 もし<軍拡と海洋進出の動きを強めていた>シナとどう向き合うのかが最重要課題なのであれば、おそらくは防衛力をもっと強化したであろうし、尖閣問題や台湾有事を想定し、集団的自衛権をはじめとする環境整備にも取り組んだであろうし、なにより憲法改正問題にももっと果敢に踏み込んだに違いない。

《対米一辺倒という「戦後レジーム」を墨守した安倍外交の功罪を見つめる時だ》(9月3日付朝日新聞社説)

 対米従属も<戦後レジーム>の1つではあるが、やはり「戦後体制」の最たるものは日本国憲法である。第1次安倍政権が「戦後レジームからの脱却」を表看板に掲げていたのに第2次政権では影を潜めてしまったことを当て擦(こす)ってこのような言い方をしているのであろうが、<対米一辺倒>という修飾語が冠されているにせよ、やはり第2次安倍政権が<「戦後レジーム」を墨守した>かのように言うのは幼稚な印象操作である。

《これからの世界で求められるのは、特定の大国の指導力ではなく、多国間で安定を維持する枠組みの強化であろう。そのためのルール形成に、日本は本腰を入れる必要がある。

 米国が離脱したのちも、環太平洋経済連携協定(TPP)を発効させたのは、自由貿易の原則を守るうえで評価できる。平和と人権、民主の理念を貫き、多国間協調の先頭に立つ日本外交の構築が目標となろう》(同)

 大国の価値観を押し付けるのではなく、各国が集い価値観を擦り合わせることが必要になるというのは分からないでもないが、それでも集団を率いる指導者は必要なのであって、日本がその役を担わねばならぬ局面が訪れる可能性は小さくないだろうと思われる。

 英国を引き込むなどTPPの輪を拡大しつつ、自由貿易の新たな基準や規範を作っていくことも、自国第一主義の考えが広がる中で、重要となるであろうことは間違いない。【了】