学校の会議で「具体の~」という言葉遣いをしばしば耳にする。私には非常に違和感がある表現なのであるが、話し言葉の揺らぎなのかと思っていたら、先日書き言葉でも次のようなものが目に留まった。
《多くの人は、生活の中で法律の条文に触れることは稀でしょう。民法や刑法の条文を読んだことのある人は、少数派だと思います。実際に読むとお分かりになると思いますが、読んだだけでは、民法も刑法も直ちには意味が分かりません。少なくとも、具体の事件にあてはめたとき、どんな答えが出るのか、すぐには分からないはずです。法律の専門家と言われる人々が必要となるのもそのためです》(長谷部恭男『憲法入門』(羽鳥書店)、p. 1)
<具体の事件>は、私なら「具体的な事件」と言うだろう。Googleで検索してみると次のような結果となった。
具体の事件:約 56 件 具体的な事件:約 4,530,000 件
他にも次のような結果が得られた。
具体の意味:約 22 件 具体的な意味 約 9,730,000 件
具体の数字:約 18,000 件 具体的な数字 約 2,400,000 件
ネットで調べてみたら、次のような先行研究が見付かった。
《以前から教授会の席上で「具体の例」といった表現をする大学教員がいて,自分では持っていない用法なので,奇異ではあるが個人的な癖かとも思っていた。筆者の内省では「的」や「例」「策」などを伴うことなく,「具体」を単独に使うことはまずない。また,通常接する周りの人にも「具体」を単独に使う人はいない。もっともこのことば自体がいささか日常語とはいえない,ということを考えれば,実態は少し違うかもしれない》(荒尾禎秀「形容動詞化する漢語 :「具体」と「具体的」の場合」)
具体的な考察はこの論文を読んでもらうことにして、荒尾氏は、これは<官庁用語>ではないかと推論されておられる。実際、「具体のプラン」をGoogle検索してみると、
「景観に関心を持つ市民を増やす」具体のプランについて、意見交換を行いました。(箕面市)
具体のプランはこれからで、そうした検討案等をノオトが提示するたびに所有者と協議し具体化していく形となる。(篠山市まちづくり審議会)
具体のプランも先ほど申し上げたが、それぞれのプランで県として進めていく。(滋賀県3月定例教育委員会会議録)
など公官庁関連のものが目白押しである。
が、普通は<具体のプラン>ではなく、「具体的なプラン」「具体的計画」などと言うだろう。
具体のプラン:約 62 件
具体的なプラン:約 1,790,000 件
具体的計画:約 2,750,000 件
「具体の~」は、やはり一種の「お役所言葉」と考えてよさそうな気がする。