保守論客の独り言

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繰り返される「バスに乗り遅れるな」式言説(1) ~「バスに乗り遅れるな」の誤解~

12月10日の読売社説は、「脱ガソリン車 世界の流れに乗り遅れるな」との標題を掲げている。

地球温暖化の防止に向け、ガソリン車から電気自動車(EV)などへの転換を目指す動きが世界で急速に広がっている。日本も、官民で対応を急がなければならない》(12月10日付読売新聞社説)

 どうして世界で急速に広がっているからといって日本が後追いしなければならないのか。否、そもそも<世界>ってどこのことなのだろう。

《英国はガソリン車の新車販売を30年までに禁止し、35年にハイブリッド車(HV)も禁じる。米カリフォルニア州は、35年までにHVを含めて禁止するという。世界最大の市場となった中国は、35年にEVを中心とする計画だ》(同)

 英米そして最近はシナも含めた大国だけを見て<世界>と称するのはもう止めるべきだ。日本を大国に従わせるのが読売の役目であろうから仕方のない話ではあるが、このような「大国へ倣え」式のやり方がいつまでも通用すると思っているところが残念である。

 <世界の流れに乗り遅れるな>と言われると、戦前の「バスに乗り遅れるな」という標語が思い出される。

《6月14日、パリ陥落。

「ドイツは強い、フランス、イギリスは弱いということが、陸、海軍にとどまらず、大方の日本人の考え方になってしまった」(松本重治『近衛時代』)

 バスに乗り遅れるな、ドイツと組め―人々の間に、そんな機運が高まった。7月13日付東京朝日は、ドイツが圧勝した今日、「英米依存外交」を脱して独伊と結ぶのは「必然的運命である」と論じた。

 7月16日、日独伊三国同盟をめざす陸軍の突き上げで、畑陸相が辞表を提出。三国同盟に反対だった米内が退陣して、第2次近衛文麿内閣が成立、外相に松岡洋右が就く》(朝日新聞「検証・昭和報道」取材班『新聞と「昭和」』(朝日文庫)、p. 176)

《日本の運命を決したこの南方進出策は、米内内閣倒壊前から参謀本部で用意され、組閣早々ほとんど検討の余裕なしに決定された。このころ国内政治においても、国際政治の上でも「バスにのりおくれるな」という言葉がはやった。近衛、松岡、東条、吉田らの責任者もドイツ軍優勢の情勢に便乗しょうとの気持に支配されていた》(遠山茂樹今井清一藤原彰『昭和史』(岩波新書)、p. 180)

 が、<バスに乗り遅れるな>という標語は、よくある誤解であるが、<ドイツ軍優勢の情勢に便乗しょうとの気持>を表したものではなく、1940(昭和15)年6月、近衛文麿が新体制を確立しようと出馬表明した際、各政党がいい地位にありつこうとした「合い言葉」だった。【続】