保守論客の独り言

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8月15日「終戦記念日」社説を読む(30)西日本社説その4

続けて近衛は書く。

《海軍が賛成するのは政治上の理由からであって、軍事上の立場から見れば、まだ米国を向ふに廻して戦ふだけの確信はない』といふので『これは洵(まこと)に意外なことを承(うけたまわ)る。

国内政治のことはわれわれ政治家の考へることで、海軍が御心配にならんでもよいことである。海軍としては純軍事上の立場からのみ検討せられて、もし確信なしといふならば、飽くまで反対せらるるのが、国家に忠なる所以(ゆえん)ではないか』といふと豊田は『今日になっては海軍の立場も御諒承(りょうしょう)願ひたい。ただ、この上はできるだけ三国条約における軍事上の援助義務が発生しないよう、外交上の手段によってこれを防止する外(ほか)途(みち)がない』と言った》

高宮太平『3代宰相列伝 米内光政』(時事通信社)、p. 155)

 三国同盟締結は、半藤氏が言うような<時の勢い>だけでは片付けられるようなものではないということが確認されればそれでよいのだが、少しだけ気になるところに意見を付したい。

三国同盟を結べば、対米戦も想定されようが、戦う自信がない。であれば、三国同盟に反対せねばならないが、政治的圧力が掛かり、賛成せざるを得なくなった」と言う海軍側に対し、近衛は、「国内政治は政治家の考えること」、「海軍が対米戦に自信が持てないと言うのなら三国同盟には反対を貫くべし」と言う。

 が、政治が混沌(こんとん)としてしまっていたのは、統帥権干犯問題が起こって以降、政治家が軍部を抑えられなくなってしまったからであり、国内政治は政治家が行うなどと偉そうに言える状態にはなかった。否、政治全体から国内政治だけを切り離すなどということ自体、近衛が政治というものを分かっていなかった証左だろう。

《近衛が豊田次官を責めている言葉は正しい。しかし、近衛自身が世界情勢にたいする正しい認識があれば、過早(かそう)に同盟に賛成できないはずである》(同)

 が、近衛が言っていることは「空理空論」だし、近衛に<世界情勢にたいする正しい認識>など求めても無い物強請(ねだ)りである。否、そもそも<世界情勢にたいする正しい認識>など、歴史の推移が分かっている今から考えても分からないことだ。

《陛下も「いましばらく独ソの関係を見きわめた上で締結してもおそくはないではないか」と近衛の再考を促されているし、近衛自身も「余は陛下のご思慮深きにいまさらながら敬服し奉(たてまつ)ると同時に、われわれがドイツの約束に信頼して、早急に事を運びたる不明にたいしては、なんとも申訳なき気がするのである」と率直にその軽率を後悔しているが、公刊された近衛手記には「法理上も事実上も三国同盟は太平洋戦争の原因にはなっていない」と居直っている》(同、pp. 155f)

 ここまで来ると、近衛は、「敗戦革命論」に与(くみ)する共産主義者であったと言う線が濃厚である。

《米内、山本が生命をかけて阻止しつづけてきた三国同盟は、近衛の浅薄な思慮と松岡の軽操とによって締結された。その背後に陸軍の盲目的なドイツ崇拝があり、時の海軍当局の無気力、無定見が加算されねばならぬことはいうまでもない》(同、p. 156)