保守論客の独り言

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繰り返される「バスに乗り遅れるな」式言説(2) ~発想力の貧困~

《のちになって、近衛が大政翼賛会を作るため、諸政党に解党を要求したというようなことがいわれたが、これは微妙な点もあるが事実ではないようである。

(中略)

 新体制準備会が開かれたのは8月28日だし、大政翼賛会が発足したのは10月12日のことで、そのずっと前に諸政党は解党していたのである。久原房之助、中島知久平、永井柳太郎、安達謙蔵などの諸派は、あらかじめ風見らと連絡があったが、少なくとも民政党主流、社会大衆党、東方会などは、なんの連絡もなく勝手に解党したのだと風見はいっている。

もちろんかれらは「新党」だと思いこんでいたので、翼賛会のようなものを予想したのではなかったろうが、しかしそれを全部近衛の責任だとはいえまい。しかも後では種々不平をいい出したが、とにかく各政党は一度はその翼賛会に、羊群のようになだれこんだのである。かれらは当時の近衛のすばらしい人気にひかれ、「バスに乗り遅れまい」として、解党を急いだというのが真相であろう。しかも、

「バスに乗りおくれまいものとして飛び出したというのに、そのバスはどこにも見当らなかったのである。いずれは乗込むべきバスが通りかかるだろうと期待するにせよ、はたして乗せてくれるかどうかもわからないという心配がある。しかも一方では、それまで乗っていた元のバスは、早手まわしにもみずから叩きこわしてしまったというのだから、混迷、混乱は無理もなかった。」

と、風見が述べているとおりである》(矢部貞治『近衛文麿(三代宰相列伝)』(時事通信社)、pp. 125-126)

 読売社説子がわざわざ警鐘を鳴らさずとも、自動車産業は需要があると思えば自ずと電気自動車製造へと舵を切るだろう。にもかかわらず、どうして<世界の流れに乗り遅れるな>などと敢えて言わねばならないのか。

《政府は、温室効果ガスの排出量を50年に実質ゼロとすることを目指している。18年度の二酸化炭素(CO2)排出量のうち16%は自動車だった。ゼロを達成するには電動車への移行が不可欠だ》(12月10日付読売新聞社説)

 政府がおかしな目標を掲げるから、おかしな施策を実行せねばならなくなるのだけれども、ガソリン車から電気自動車への転換はそれだけでは排出削減とはならない。そもそも電気をどのように手に入れるのかという問題があるのである。

《EVが増えても、発電所温室効果ガス排出を減らさなければ、効果は限定的となろう。再生可能エネルギーの利用拡大や、原子力発電所の再稼働が重要だ》(同)

 原発再稼働を進めるというのなら確かに筋は通る。原子力発電で電気を創り、電気自動車を走らせればCO2は減る。が、今更言うまでもないが、再稼働反対派を説得するのは相当骨の折れる話である。

《世界では米テスラなどがEVの販売を伸ばし、日本の存在感は低い。取り残されれば、基幹産業である自動車産業の競争力が落ち、日本経済に打撃が及ぶだろう》(同)

 日本経済はいつまで自動車産業に依存し続けるつもりなのだろうか。むしろこういった「発想力の貧困」こそが日本経済の停滞を招いている真因なのではないだろうか。【了】