保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

最低賃金引き上げについて(3) ~社会主義的市場介入~

《賃金水準の底上げは、働く人の消費を喚起し、経済再生につながる》(8月6日付読売新聞社説)

 深く考えもせず甘言を弄(ろう)するのはやめてもらいたい。どうして最低賃金が上がれば働く人の消費が喚起されるのであろうか。まして是式(これしき)のことで経済が再生されることなど有り得ない。

 個人にお金が回ればそれだけ個人消費が増えると考えるのは浅薄である。将来に備えて貯蓄に回せば、個人にお金が滞留するということもなくはない。逆に、会社は人件費が上がることで、設備投資や研究開発に回せるお金が減り、じり貧に陥りかねない。

 個人消費を増やし経済再生に繋げようとするのなら、最低賃金という特殊な部分にだけ拘(こだわ)るのではなく、労働者全体の賃金上昇を考えるべきである。それは「ベースアップ」という話だけではない。「ベースアップ」は正社員だけの話であって、むしろ問題なのは非正規雇用労働者である。正規雇用への転換もあるし、「同一労働・同一賃金」に近付ける努力も必要である。

 否、そんな小手先の話ではなく、生産性そして利益を上げるためには、「アベノミクス」と称する金融緩和によって円安誘導し、自動車産業白物家電をはじめとするこれまで日本経済をけん引してきた低コスト生産型産業を優遇するのではなく、円高に対応した付加価値生産型の産業へと構造転換を図らねばならない。

《(賃金水準の底上げは…)女性や高齢者の就労意欲を引き出す効果もあるだろう》(同)

 これも疑問である。

兵庫県内の事業者からは「時給を上げても収入を扶養の範囲に収めるために労働時間を短縮する人が多く、人手不足が解消しない」との悲鳴が上がる。税制も見直す必要がある》(8月3日付神戸新聞社説)

 所得税の扶養判定が得られるかどうかの「年収103万円の壁」、パート先の社会保険が適用されるかどうかの「年収106万円の壁」、社会保険上の扶養判定が得られるかどうかの「年収130万円の壁」、税金の配偶者特別控除が満額受けられるかどうかの「年収150万円の壁」といった税金や社会保険の問題が複雑にからみ、必ずしも就労意欲が高まるとは限らないのである。

《働き手の生活の安定や貧困対策のため政策として最低賃金を誘導することは理解できる。しかし、民間の賃金決定に政府の意向が強く及ぶことは、市場原理を損ない望ましくない。政府はその点を認識すべきだ》(8月1日付日本経済新聞社説)

 このことを指摘しているのは日経社説だけであるが、私も安倍政権は少し社会主義的市場介入が過ぎると思っている。「人手不足」なのであれば、自然と賃金は上昇するはずであり、それが起らないのはなぜかということについてもう少し検討することも必要なのではないか。

 日本が新たな産業構造へと移行するためには「創造的破壊」(シュンペーター)が必要である。そのためには、政府は恒常的な市場介入をやめるべきだと私は思うのであるが…【了】