保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

稲田元防衛相の誤解(3) ~憲法14条の拡大解釈~

 ―今回の法案を「奇跡的なガラス細工の合意案」と表現していました。

 野党はすでに差別解消法案を国会に提出していましたので、与野党協議は5月の連休までずっと平行線でした。野党からの提案は、差別解消のための措置を入れてほしいなど、なかなか受け入れられないものばかりでした。こちらから別の角度からの提案をしないと合意にはたどり着けないと思い、目的や理念に憲法14条の趣旨を入れることを思い付きました。

 14条は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」とあります。自民党の考えでは性的指向性自認による差別も憲法14条の趣旨に入ると整理していました。そこで「差別は許されない」という文言を入れたのです。(東京新聞2021619 0600分)

 が、

《ここで留意されるべきは,法学や憲法学は,差別的偏見を禁止したり,これを是正しようとするわけではない点である。〈人種差別は許されない〉と世間でよくいわれるが,憲法学が問題として取りあげるのは,差別意識や偏見のことではない。差別的偏見に基づいて国会が法律を制定すること,その法律を行政機関が執行すること,といった国家の行為の合憲性を問うのである》(阪本昌成『憲法2 基本権クラシック』(有信堂)全訂第三版、p. 83

 否、そもそも<性的指向性自認による差別>などというものを憲法14条を持ち出して「許されない差別」とすることがなぜ必要なのかが分からない。

《現代積極国家にあって,国家は自ら差別してはならないだけでなく,社会に事実上存在する不平等を除去しなければならないという,積極的ないし社会権的内容を盛り込んで平等権を捉えようとする考え方が強くなってきた(阿部照哉)》(佐藤幸治日本国憲法論』(成文堂)、p. 198

ということなのであろう。百歩譲って<不平等を除去>しようと言うのなら分からないでもない。が、話は飛躍する。

《社会の中の根強い差別意識のため,通常の社会経済過程から疎外されている者(多くの場合,少数者)が存すると認められる場合に,国家は,その者の平等を保障するための措置をとる義務を負うとともに,その者を通常の過程に参与させるために必要やむをえないと考えられるときは,一時的にその者に対して一般の人に対すると異なる特別の優遇措置(優先処遇〔affirmative action〕とか積極的差別是正措置〔positive action〕とか呼ばれる)を講ずることが求められるという考え方が登場する》(同)

 差別を政治的優遇措置で解消しようなどとすれば、優遇を得んがために差別を捏造(でつぞう)しようとする輩(やから)が出て来るのは自然の成り行きである。

《もっとも,この優先処遇ないし積極的差別是正処置は,複雑微妙な問題を孕(はら)んでおり,そのことも関係して,一般には,憲法の保障する平等権の内実そのものはそうした処遇ないし措置を求める権利までは含まず,ただ国家が政策的にそうした処遇ないし措置を講ずることが必要な場合があることは否定しないと解するにとどまっているように思われる。したがって,そうした処遇ないし措置を講ずる場合の理由や方法いかんによっては,むしろ「逆差別」として憲法違反とされる可能性がある》(同)​【続】​