保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

土地利用規制法成立について(1) ~土地購入規制法でないことに注目!~

《国境離島や防衛施設周辺等における土地の所有・利用を巡っては、かねてから、安全保障上の懸念が示されてきた。経済合理性を見出し難い、外国資本による広大な土地の取得が発生する中、地域住民を始め、国民の間に不安や懸念が広がっている。例えば、長崎県対馬市では海上自衛隊対馬防備隊の周辺土地が、また、北海道千歳市では航空自衛隊千歳基地の周辺土地が、それぞれ外国資本に取得され、地域住民の不安や懸念を背景に、市議会において、様々な議論が行われている》(「国土利用の実態把握等に関する有識者会議」:2020年12月24日付「国土利用の実態把握等のための新たな法制度の在り方について」提言)

 このような問題意識から、

自衛隊基地、原発など安全保障上重要な施設周辺や国境離島の土地利用規制法がきのう未明の参院本会議で可決、成立した》(6月17日付京都新聞社説)

はずだった。これにて一件落着かと思いきや、事はそう単純なものではなかった。

《当初、法案がまとめられた背景に、外国資本による土地購入に対する懸念があった。しかし、日本が批准する「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)により、外国資本だけを対象とした規制は難しい。この時点で、法案を見送るべきだった。

 しかし、政府は土地所有者の国籍を問わず「安全保障」を名目にすることにした。出来上がった法案は、外国人が土地を所有すること自体は規制せず、基地周辺で暮らす自国民を監視対象にする内容にすり替わってしまった。基地と隣り合わせの多くの沖縄県民が対象になる》(6月16日付琉球新報社説)

 つまり、今回の土地利用規制法は、<外国資本による土地購入>を規制するための法律ではなく、<外国資本による土地購入>は認め、基地周辺住民を監視ための法律に変質してしまっているということだ。したがって、

自衛隊海上保安庁の施設、原子力発電所など重要インフラや国境離島を守るのに必要な法律の制定は歓迎すべきことだ》(6月17日付産經新聞主張)

などと素直に喜べるような話ではないのである。

《法律では、重要施設の周囲約1キロや国境離島を「注視区域」に指定し、所有者の調査や、施設への妨害行為に対する中止勧告・命令を可能にする。司令部機能がある自衛隊基地周辺などは「特別注視区域」とし、一定面積以上の売買に利用目的の事前届け出を義務付ける。

 命令に従わない場合や、届け出を怠ったり虚偽だったりした場合には懲役や罰金も科す》(同、京都社説)

 が、

《専門家は、どのような行為が犯罪に該当し、どう処罰するかをあらかじめ明確にすべきとする「罪刑法定主義」の原則に反する可能性があると指摘している。

 規制対象となる施設や調査項目は政令で定めるとされているが、法的要件が曖昧なままでは、恣意(しい)的な運用への不安が拭えない。

 内閣委員会は、注視区域指定前の自治体からの意見聴取や、指定後の国会報告を求めるとする付帯決議を採択した。

 ただ、決議には拘束力がなく、どう実効性が担保されるかは不透明だ》(同)​【続】