保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

「民主主義の退潮を食い止めよ」という読売社説(4) ~民主主義は絶対ではない~

《民主主義の脆弱(ぜいじゃく)さを認識した上で、民意をより良く反映し、安定した政治を実現できる制度を築き直さねばならない》(5月4日付読売新聞社説)

 どうして<民意をより良く反映>する制度を築き直さねばならないのだろうか。むしろ熱し易く冷め易い感情に左右されがちな民意からは一定の距離を置くべきである。

 ウォルター・リップマンは言う。

the outsider, and every one of us is an outsider to all but a few aspects of modern life, has neither time, nor attention, nor interest, nor the equipment for specific judgment. It is on the men inside, working under conditions that are sound, that the daily administrations of society must rest.

The general public outside can arrive at judgments about whether these conditions are sound only on the result after the event, and on the procedure before the event. ― Public Opinion

(部外者は、我々の誰もが現代生活の一部の側面を除いて部外者であるが、特別な判断に要する時間もなければ注意も興味も準備もない。健全に活動している当事者たちに社会の日々の管理は頼らねばならない。

 外部の一般大衆は、事後の結果と事前の手続きおいてのみ、健全かどうかについて判断を下すことができる―『世論』)

 国が抱える問題と庶民が抱える問題は違う。複雑多岐に渡る国の問題に庶民感覚で意見しても意味がない。だからこそ間接民主制が敷かれているのである。選挙によって自分たちの代表を選び、「議論」を通して物事を決していく。そこに問題があれば、次の選挙で自分たちの代表を変更する。

 今の政治に問題があるとすれば、民意が反映されていないというよりも間接民主制が機能していないことにあるのではないか。それは主として国会における「議論」の未熟によるものである。その原因は政治家の不勉強によるものだと言えようが、政治家は民衆の代表である限りにおいて、それは民衆の政治的未熟によるところが大きいのであろうと思われる。

the practice of appealing to the public on all sorts of intricate matters means almost always a desire to escape criticism from those who know by enlisting a large majority which has had no chance to know. ― ibid.

(すべての種類の複雑な問題に関していつも大衆に訴えようとするは、ほとんどの場合、知る機会を持ったことのない大多数の人たちを巻き込むことによって知っている人たちからの批判をかわしたいからである)

 頻繁に行われる各種世論調査によって、民意はいやというほど明らかにされ、陰に陽に政治動向に影響を与えている。否、政治を振り回していると言った方が良いのかもしれない。不足しているのは代表者による議論である。

 民主主義はほかのどの制度よりも優れたものであったとしても、絶対的なものではない。世界に見られる民主主義国の混乱は、民主主義が内包する問題の表れと言えなくもない。であるなら、民主主義を客観的、懐疑的に見る必要もあるのではないか。【了】