保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

米国のINF条約破棄について(2) ~米中露の動きを止める手立てはない~

広島市長と長崎市長は連名で先月末、トランプ、プーチン両氏に要請書を送り、「代替措置なしにこの条約が撤廃されれば、核兵器使用のリスクが高まる」と訴え、互いの信頼関係を築くよう求めた。安倍政権は、そのために両国首脳を説得する役割を心がけるべきだ》(2月3日付朝日新聞社説)

 唯一の被爆都市である広島と長崎には核に関して物申す権利があり、安倍晋三首相は、米国のトランプ氏ともロシアのプーチン氏とも親交が深いのであるから、両氏を説得して欲しいということなのだろう。が、広島、長崎は言うまでもなく、軍事における交渉カードを持たぬ安倍首相もはっきり言って無力である。

 朝日社説子は第2次世界大戦において、米国とソ連がどれほど国際条約を違(たが)えてきたのか分かっていないのだろうか。米露両国が国際条約を遵守(じゅんしゅ)して活動するなどと思っていたら大馬鹿者である。

 米露が核軍拡を行っていないのは条約があるからではない。1991年にソ連邦が解体し軍拡競争は終わりを告げた。そして米ソの競争から米露の棲み分けへと移行した。その象徴が中距離核戦力(INF)全廃条約であった。

 その後、中国が台頭し、INF条約では収まりがつかなくなってしまった。産経も言うように、今回の条約破棄は米中露の新たな枠組みを作るための下準備と捉えるべきであろう。

《米ロ中も加わっている核不拡散条約は、「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を締結国に課している。その責務に背を向けることは核不拡散体制を掘り崩し、恐怖が覆う世界をもたらすだろう。そこに勝者は誰もいない》(同)

 インド、パキスタンは言うまでもなく、北朝鮮までもがおそらくは核を保有し、イランも開発を目論んでいるような状況で、核不拡散条約などあってなきものでしかない。「誠実に核軍縮交渉を行う義務」など有名無実である。<勝者は誰もいない>などと自ら吐いた言葉に陶酔していても仕方がない。

トランプ大統領の看板政策の大型減税で米国の財政赤字は膨らんだ。軍拡路線を突き進めば財政悪化は深刻化する。

 それに、核戦力を増強しながら北朝鮮には核廃棄を求めても説得力はあるまい。

 ロシアは欧米の経済制裁のあおりもあって経済低迷が続く。中国も格差拡大が進む一方で経済成長は減速している。各国とも軍拡よりも民生の安定・向上に資金を投じるべきである》(2月5日付東京新聞社説)

 「べき論」としてはその通りであろう。が、たとえ財政負担が大きく、経済が低迷したとしても、軍事的覇権をどの国が握るのかというのは、力に物を言わせてやりたい放題にやってきた国にとって死活問題なのだろうと思われる。当然それぞれの傘下の国々にもそれ相応の負担が要求されるであろうことは想像に難(かた)くない。

 戦後世界を牛耳ってきた米中露の動きを止める手立ては、残念ながら今の世界にはない。【了】