保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

再び「最低賃金」について(2) ~机上の空論~

アゴラ研究所所長の池田信夫氏は言う。

--最低賃金の引き上げについてどう考えるか

 「日本の賃金が先進国としては低いことを最初に指摘したのは国際通貨基金で、昨年の対日審査報告でも政府が労働市場に介入して賃金を引き上げることを提言している。もちろん、賃金は労働市場で自然に調整されていくのがベストだが、今の日本では賃金調整のメカニズムがうまく働いていない」(産経新聞2019.9.22 12:00)

 人手不足であれば賃金が自然と上がるはずなのになかなか上がらないのは、1つは企業が賃金を上げようにも上げる余力がないということだろうと思われる。

 生産性が上がらなければ従業員の賃金を上げようにも上げられない。が、旧態依然たる製造業では生産性の向上は見込めない。

 意見が分かれるところであろうが、私はかつての円高時に、積極的に先行投資をし、産業構造を「物作り」から「価値作り」へ転換を図るべきではなかったかと思っている。が、残念なことにアベノミクスと称する金融緩和によって円安となり、「物作り」産業が延命することとなってしまった。

 もう1つは、外国人労働者の受け入れ政策である。外国人労働者を受け入れることで人手不足が緩和されれば賃金は上昇しないということである。人手不足は、将来性を考えても、日本が得意とするAIやロボットの開発によって補うべきであり、社会秩序を不安定にするであろう外国人労働者受け入れを優先するような考え方には疑問符が付かざるを得ない。

 --韓国では自営業者が人件費の負担増に耐えかねて雇用者を減らした

 「日本では6月の完全失業率は2・3%とほぼ完全雇用に近く、今は失業率の上昇を心配する状況ではない。日本は、労働者の質が世界4位と悪くないのに、賃金だけが異常に低いところにはりついている。最低賃金を上げるのは、普通の先進国と同じレベルに戻すためでもある。その場合、経営効率の悪い中小企業が淘汰(とうた)され、そこで働く人たちの雇用が一時的に失われることは避けられないが、長期的には経営効率の悪い企業は買収され、雇用も移行するだろう。当事者にとっては大変な問題ではあるが、労働者を低賃金でしか雇用できない企業を温存し続けることがいいことなのかは考える必要がある」(同)

 問題は旧い「物作り」体質から新しい「価値作り」へ産業構造を転換することが出来ないことにあり、このような状態の中で最低賃金を上げるのには無理がある。

 企業の生産性が向上する中での淘汰というのなら分かるが、企業が頭打ちの中で賃金を上げるのは無謀である。

 --6月に発表された「骨太の方針」では、全国一律1千円となる賃上げが提起されている

 「地方と東京では200円ぐらい違うが、地方で若者に働いてもらうためにも、地方の賃金を東京の賃金に近づける方向性は間違っていない。最低賃金の引き上げは、パート労働者を中心とした賃金が底上げされることによる消費拡大も期待でき、地方経済の活性化につながる」(同)

 最低賃金が上がれば懐事情が良くなって消費が拡大するなどという話は眉唾物である。零細企業が淘汰され、間近に失業する人たちを見れば、財布の紐はむしろ締まりかねない。

 また、地方の最低賃金を都市部に近付けようというのも地域特性を無視した話であり、地方の最低賃金が都市部並みになれば、地方の消費が拡大し、地方が活性化するなどという話も机上の空論でしかないように思われる。【了】