保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

再び「最低賃金」について(1) ~最低賃金を上げればよいという単純な話ではない~

産經新聞の【日本の議論】で交わされた内容を検討してみよう。

 経済評論家・中原圭介氏は次のように言う。

 --日本の最低賃金は先進諸国の中でも低く、生産性も低いという指摘がある

 「それぞれの国に特有の価値観や税制、生活様式社会保障があり、1つの指標だけで日本は悪いとはいえない。日本の生産性が低く出る主要因は、中小企業、とりわけサービス業の従事者が多く、小売店の数が多いことにある。極端な話、中小企業を減らし、コンビニや飲食店の数を半分にすれば数字上の生産性は上がるが、それが正しいことかよく考えなければならない。真に注目すべきは数字ではなく実態。国民が今の生活水準や社会環境をどう思うかだ」(『最低賃金の引き上げ「先進国並みに」「実態に注目を」』:産経新聞2019.9.22 12:00)

 最低賃金や生産性が低いのだとしても、だから日本の生活水準が低いとは必ずしも言えないのではないか。

f:id:ikeuchild:20190923173230j:plain(同)

ドイツやフランスは最低賃金が千円を超えている一方、米国は日本よりもさらに最低賃金が低い。もし日本の最低賃金が低いことが問題なら、米国は大問題ということになるだろう。

 要は、「自由」と「平等」の平衡の問題なのではないか。米国は「自由」に重きを置き、フランスは「平等」を重んじる傾向が強い。当然ながら「自由」と「平等」の強弱はその国の文化や価値観によって異なってくる。にもかかわらず、ただ最低賃金が高いだの低いだのと単純に論じるのはあまりにも皮相的ではないかということである。

 --イギリスは最低賃金引き上げの好例として挙げられる

 「最低賃金、生産性ともに見かけ上の数字は改善されたが、地方の企業はその最低賃金では人が雇えなくなり、ロンドンに賃金の高い企業が集中した。その結果、都市と地方の格差が広がり、地方の労働者階級の不満が爆発、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)の引き金になっている。イギリス、フランスなどは数字上は最低賃金も生産性も日本より高いが、日本より格差が開き、物価高で生活苦に悩む人が増えているのが現実だ」(同)

 最低賃金を上げることで<格差>が開き<物価高>になったとすれば、これを<改善>などという言葉で呼ぶべきかどうか疑問である。

--最低賃金を上げれば、生産性も上がるという意見もある

 「『必要に迫られるので工夫する』は実情に即していない精神論。そもそも多くの企業がやれることは既にやっている。生産性が高く、もうかっている大企業は5%でも賃金を上げればよいが、余力がない企業は、社員、パートの人数や労働時間を減らすしかない。東京の大企業は利益を第一に求める一方、地方の企業経営者の多くは生産性を上げるより今の雇用を守る方が大切だと考えている。都市と地方の違いを認識すべきだ」(同)

 最低賃金を上げれば、最低賃金以下の非生産的な仕事が淘汰され数字上の生産性が上がるということに過ぎない。中小企業の倒産件数が増えないのかどうか、失業率が高まらないのかどうか、将又(はたまた)、人件費が上がることで製品価格が上昇し、「質の悪いインフレ」とならないのか、といったことを総合的に考えることが必要である。【続】