《東京電力福島第1原子力発電所のタンク群にたまり続けているトリチウムを含む処理水について政府が海洋放出の方針を固めた。
早ければ今月末の関係閣僚会議で正式決定の見通しだ。事故後10年が近づく中で、ようやく見えてきた「処理水メタボ」解決への前進である。
タンク群を片付けられないと、燃料デブリを取り出す重要な廃炉工程の進展に支障を来す。安倍晋三前政権が持て余した難題の克服を、「国民のために働く」菅義偉政権の手腕に期待したい》(10月20日付産經新聞主張)
が、<処理水>の放出には少なからず批判もある。
《トリチウムは、通常運転の原発から出る排水にも含まれており、基準値以下の濃度に薄めて海に放出することは、国際的にも認められてはいる。
ところが放射能汚染水の海洋放出に関して、法令は排出時の濃度規制をしているだけで、総量規制はしていない。「拡散させれば大丈夫」という考え方に立っており、薄めれば、いくらでも海に流せることになる。
トリチウムの放射線は微弱だが、ゼロではない。メルトダウン(炉心溶融)した原発からの処理水を長期にわたって海へ流し続けた場合の影響は、未知数だ》(10月21日付東京新聞社説)
「ゼロリスク」ということになれば何も出来なくなってしまう。国際的にも認められているのであれば、処理水放出に踏み切るしかない。
《時代が違うとはいえ、海水の希釈能力を過信し、有機水銀を含む化学工場の排水を海に流し続けた結果が、水俣病ではなかったか》(同)
水俣病は、有機水銀の毒性を知りながら<海水の希釈能力を過信>したために起ったのではない。当時は、工場排水を十分に処理して流すというような考えが希薄で、川や海は汚れ、ヘドロが溜まっていたような時代であった。水俣病と類似にみて処理水放出を咎(とが)めようとするのはやはり無理があろう。
《第1原発では東日本大震災での炉心溶融事故で放射能汚染水の発生が始まり、それを多核種除去設備で浄化処理している。
しかし、放射性元素のうちトリチウムだけは除去設備をすり抜けて処理水に混じる。そのため、東電はタンクに保存を続け、現在では約120万トンもの処理水が約千基のタンクに貯蔵されている。
事故炉建屋などへの地下水や雨水の流入で処理水は日々増え続け、あと2年で原発敷地内での貯蔵能力は限界に達してしまう。トリチウムを含有するために海洋放出ができなかったのだが、世界的に見ると不可思議な措置だ。
トリチウムは原発の通常の運転でも発生し、放射能が微弱なので薄めて海に流すことが世界の原発で一般化されているからだ》(同、産經主張)【続】