保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

12月8日を風化させるな!(3) ~「最初の一発」を撃たせる罠~

《12月6日(筆者注:日本時間は7日)の夕刻には、送られてきた全文、すなわち第1部から第13部までの暗号解読が完了した。日本側はアメリカの提案に不満足であり、それを拒否する、という内容である。電文は戦闘的な言辞に満ちていた。

 その夜、ルーズベルト大統領は、この対米通告を読み終わるやいなや、かたわらの政治顧問ハリー・ホプキンズを顧みて言った。

「これは戦争だよ」

 戦争だ―それにもかかわらず、米太平洋艦隊の根拠地ハワイの真珠湾へは、一片の指示も送られなかった。この不思議は、べつに12月6日に始まったわけではない。それ以前、何カ月も前から「紫暗号」(パープルコード)の解読結果は、一度たりとも太平洋艦隊に転送されたことがなかった。太平洋艦隊司令長官ハズバンド・キンメル海軍大将には、東京・ワシントン間の不穏きわまる交信を傍受するための「紫暗号」解読機械さえ与えられていなかった。

 ドロシー・エドガーズ夫人を驚かせた領事館暗号は、ハワイのフォートシャフターにある米陸軍の特別モニター局MSSも傍受していた。だが、ハワイを預るハワイ方面陸軍司令官ウォルター・ショート中将には「魔法」(マジック)の解読文は配布されていなかった。そもそもショート中将は、自分の指揮するハワイにMS5なる機関があることさえ知らなかった。モニター局を管理する陸軍少佐も解読機械を持たず、傍受したものをそのままエアメールでワシントンに送るよう命令されただけだった。

 日本による真珠湾奇襲の可能性を示唆する情報は、前記の喜多総領事電以外にも無数にあった。米陸軍通信情報部(SIS)は、2カ月前にも、東京から喜多宛てに真珠湾水域を5区に分割し、米艦隊の停泊位置通報にいっそうの正確を期すよう指令してきた電文の解読に成功した。ワシントンの陸海軍情報参謀の何人かは、これを読んですぐ、日本機による空襲の危険を考えた。彼らは、キンメルとショートの在ハワイ陸海軍指揮官にすぐ知らせるべきだと上申したが、このときも、なぜか上官によって黙殺された》(ジョン・トーランド『真珠湾攻撃』(文藝春秋)、pp. 20-21)

 一般に真珠湾攻撃は、宣戦布告の通知が遅れたため、騙し討ちだとの汚名を着せられ、米国の怒りを買ったというのが通説であるが、日本側の暗号はとっくに解読されてしまっていたということであれば、話はまったく違ってくる。

 11月25日…大統領は会議を招集した。出席したのは、ハル国務長官、スチムソン陸軍長官、ノックス海軍長官、マーシャル参謀総長、スターク海軍作戦部長である。会議を記録したスチムソンの議事録が真珠湾攻撃調査委員会に提出されている。

<問題は、いかにして彼ら(日本)を、最初の一発を撃つ立場に追い込むかである。それによって我々が重大な危機に晒されることがあってはならないが。>(ハーバート・フーバー『裏切られた自由(上)』(草思社)渡辺惣樹訳、p. 502)

 日本が先制攻撃を仕掛けてくることが分かっていながら、相手に<最初の一発>を撃たせるために、ハワイに情報を伝えなかったということである。フーバー元大統領は言う。

《このような態度を我が国が取ることは、相手がどのような国であれ理解に苦しむことである》(同)【続】