保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

政治指導者不在のコロナ禍の悲劇(5) ~前向きの政策を打ち出すのが真の指導者だ~

京都大学藤井聡教授は言う。

「作用と副作用すべてを踏まえた最も適切な感染症対策、つまりコロナで亡くなる方、経済で亡くなる方、うつ病になる方、後遺症に苦しむ方、みんなを見すえた上で一番被害が小さくなるようなベストウェイを探りましょうと言っていますが、当然ベストウェイというのは一部感染を許容するものなので、嫌なんですね…単なる集団ヒステリー。これが1年以上続いていて、テレビと一部の専門家が不安心理をあおっている」(東スポWeb 20210606 0515分)

 感染者数だけに囚(とら)われず、全体を見渡して、最善手を見付け出し、対策を講じるのが政治指導者の責務なのではないか。飲食店を「生贄(いけにえ)の羊」とし、補償も不十分なまま繰り返し時短営業ないし営業自粛させるのは単なる「弱い者いじめ」である。

 医師で元厚生労働省医系技官の木村盛世女史は、

新型コロナウイルスは致死性の高いコロナウルスではなく、“風邪コロナウイルス”であり、新規感染者数よりも重症患者の数を重視すべき》(「新型コロナウイルス報道への疑問」:nippon.com 2021.07.15

と説く。

「新型コロナ感染症は、高齢者にとっては怖い病気ですが、感染が広がることと重症者が増えることは全く別問題。感染者数が一番多いのが20代で、彼らはほとんどが無症状か軽症。死亡する方が一番多いのが80歳代です。日々の報道で新規感染者数に耳目を奪われがちですが、感染の広がりよりも、重症者数の増加の方を重視すべきなのです」(同)

 現在の感染者増は、重症化および死亡率の低い若者層のものであり、高齢者のワクチン接種も進んでいる中で、どうしてまた<緊急事態宣言>なのかさっぱり分からない。

塩野義製薬はずっと感染症の研究を続けており、国産ワクチン開発が一番進んでいる。ワクチンを作る能力は、日本の科学者にも製薬メーカーにもあります。しかし、塩野義にしても、ワクチンの効果、副反応などを判定するためには、(新型コロナワクチンを作った)米ファイザー製薬が行ったような2万人規模の治験を行わなければならないが、それができない。海外でスタンダード(標準)となっている1万人以上の治験ができなければ、国産ワクチンは未来永劫できない」(同)

 <緊急事態>を宣言したり解除したりする「交通整理」が政治指導者の第1の仕事なのではない。経済をどう回すのかということ、今後も繰り返されるかもしれないパンデミックに対し迅速に国産ワクチンを製造できる体制を築くこと、こういった前向きの政策を打ち出すのが「真の指導者」というものなのではないだろうか。【了】

政治指導者不在のコロナ禍の悲劇(4) ~言うことを聞かない飲食店を狙い撃ち~

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 《第5波とみられる感染拡大をどう食い止めるのか?という中で出てきたのが、緊急事態宣言下でも酒の提供を続ける飲食店に対する「2つの対策」です。

1つは「金融機関」などから飲食店に対して、酒の提供停止などに従うよう働きかけることを要請するというものです。もう1つは酒類の「販売業者」に、酒類の提供を続ける飲食店への取引停止を要請するものです。

これらの案はどちらも相次いで「撤回」に追い込まれました。この2案を出した責任者の西村大臣は14日、改めて国会で陳謝しました。

西村経済再生担当大臣「飲食店の皆様、また酒販の業界の皆様に大変なご不安を与えることになりまして、深く反省をしております。申し訳なく思っております」》(日テレNEWS24 7/14() 22:09配信)

 が、<反省>とは口先だけだろう。西村大臣は前にこんなことも言っていた。

《政府は2日、新型コロナウイルス対策の強化に向け、飲食店の感染対策状況を利用客が報告する新たな仕組みを導入すると発表した。感染対策の「第三者認証制度」の基準が守られているかグルメサイトのアンケートに回答し、国から情報提供を受けた都道府県が「違反店」を指導する。7月中の開始を目指す。

(中略)

 新たな仕組みは、店の利用客が「食べログ」「ぐるなび」「ホットペッパーグルメ」の3サイトを通じ、座席間隔、マスク着用状況、手指消毒、換気などの対策が講じられているかアンケート形式で回答する。

 違反店が正当な理由がなく都道府県の指導に従わない場合は認証を取り消すこともある》(毎日新聞 2021/7/2 19:04

 これでは飲食店を生かすも殺すもアンケート次第ということになりかねない。まさに「密告」による「恐怖政治」である。

 西村大臣は14日、

「なんとか感染拡大を抑えたい、できるだけ多くの皆様のご協力をいただきたいという私の強い思いからの発言」(日テレNEWS24、同)

だと答えている。が、これは「詭弁(きべん)」と言うしかない。なぜなら政府関係者から次のような声が出ているからである。

「言うことを聞かない店への対策としてやるなら、あれしかない」(同)

 言うまでもなく<言うことを聞かない店>が、感染の拡大源というわけではない。にもかかわらず、<言うことを聞かない店>を狙い撃ちにしたのは、言うことを聞かないことへの怒りか、言うことを聞く店と聞かない店の不公平が許せなかったからであろう。

 が、要請に従わなければ、金融機関からその飲食店に働きかけさせたり、販売業者に酒類の取引停止をさせたりするのは、ここはシナかと見紛うばかりの強権主義ではないか。【続】

政治指導者不在のコロナ禍の悲劇(3) ~自由の抑圧~

《発令に伴い、酒類提供店は午後8時までの時短営業から休業へ逆戻りを強いられる。

 自治体からの要請を受け入れた見返りに協力金が支払われる仕組みだが、営業すれば得られたはずの利益を補償する制度設計になっていない。支給が遅れる例も続出し、資金繰りを圧迫している。

 協力金による事業者支援は限界があり、長期に及ぶコロナ禍では有効打にならない。要請に応じない飲食店が出るのは、支援が安全弁として機能していないためだ。そうした店が多数出れば、宣言は尻抜け状態になる。

 活路を見いだせない自転車操業が6週間も延長される。政府は窮状を目の当たりにしながら、いつまで手をこまねくのか。救済の在り方を見直し、休業に見合う制度に即刻切り替えるべきだ》(7月9日付河北新報社説)

 時短や休業を要請するのなら、それに見合うお金を支給するのが当然である。が、支給が遅れたり、支給額が不十分であったりすれば、要請に応じない店が出て来るのもまた至極当然のことである。

 そこに要請に応じる店と応じない店があるのは不公平だという「ルサンチマン」(怨恨)が顔を出す。それは平等が真理であるという思い込みの産物である。が、自由と平等は「二律背反」(trade-off)の関係にあるから、平等にしようとすると自由が抑圧されることになる。

《新型コロナ対応を担当する西村康稔経済再生相が、飲食店に酒を出させないため、業者にお金を貸している金融機関に「働きかけ」を依頼する方針を表明した。すぐに撤回に追い込まれたが、同時期に酒の卸業者に出した「酒の提供を続ける飲食店との取引停止」の依頼は取り消していない(注:13日に撤回)。西村氏は「メディアや広告での扱い」にも触れ、「順守状況に留意するよう依頼を検討」としていた。現時点でも、問題をどこまで自覚しているのか、極めて疑わしい。全面的に方針を改めるべきだ》(7月11日付朝日新聞社説)

 これでは西村大臣は経済再生相よりも共産主義社会推進相と言う方が相応(ふさわ)しい。が、自民党が既にして左傾化してしまっているためにそのことに気付かない。やろうとしていることが、中共権威主義と同じであると認識できない。自由を抑圧しようとして憚(はばか)らない自由民主党とは羊頭狗肉(ようとうくにく)もいいところである。

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《コロナ対策の特別措置法では、緊急事態宣言などの地域では、酒を出す飲食店に時短や休業を要請・命令でき、従わない場合は罰則もある。だが、取引先を通じて経営に打撃を与えるようなことは、特措法にも緊急事態宣言の基本的対処方針にも書かれていない。

 それゆえ「働きかけの依頼」のかたちをとったのだろうが、金融庁国税庁といった規制官庁からの「依頼」は、事実上の強制になりがちだ。一方で、金融機関は、ただでさえ資金繰りの厳しい飲食店の死命を制する力も持ちうる。結果として過剰な制裁になりかねない》(同)

 難癖しか付けられないマスコミに正論を吐かれているようでは自民党もお仕舞である。​【続】​