保守論客の独り言

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旭川医大における北海道新聞記者の違法取材について(4) ~実名報道~

2011年まで25年間、北海道新聞社に記者として勤務し、報道本部(現・報道センター)次長として、全社の警察・司法取材を見渡すポジションにいたこともある高田昌幸東京都市大学メディア情報学部教授は、大学を卒業して3カ月ほどしか経っていない試用期間中の新人記者が、違法性を問われかねない“突撃取材”をした理由の1つに「北海道新聞の全体的な取材力の劣化」を挙げる。

《長期的な展望や取材方針を十分に持たないまま、北海道新聞はこの問題の取材を続けたのではないか。準備が十分であれば、学長選考会議が非公開であったとしても、会議参加者などから事後的に取材することは十分にできる。おそらく北海道新聞はそうした取材網を形成できていなかったのだろう。あるいは、形成できていたとしても、薄紙のような、すぐ剥がれてしまいそうなものだったのではないか。準備不足は焦りを生む。それが高じれば、組織は突撃取材への誘惑にもかられよう》(高田昌幸「市民の知る権利に応えてこその『報道の自由』――『記者逮捕』を考える〈中〉」:論座20210630日)

 そして

《今回の事件は決して逮捕された記者個人の責任ではない。当人の能力不足の問題でもない。十分な陣容を確保し、取材に向けた環境を整えるのは、リーダーの役割であり、幹部の責任である》(同)

と主張する。つまり、記者個人ではなく上司の責任である。社の取材の仕方の問題と言っても良い。

 最後に取り上げたいのが「実名報道」の是非である。

《今回の事件は、全国紙やテレビ局も含め、主要メディアのほぼ全てで報道されたが、記者の実名を報じたのは北海道新聞だけだった…佐藤編集局総務は6月24日、社内に向けておおむね次のように説明したという。

 「『編集手帳』にある通り、事件事故の報道は実名が原則だ。建造物侵入そのものは重い罪ではないが、過去の記事でも公務員などが容疑者の場合は実名で報道してきた。微罪事件であっても実名が原則だ。『自社の社員だから』『若い社員だから』と言ってダブルスタンダードにはしなかった。編集局幹部でさまざまな観点から議論し、最終的には編集局長が判断した」》(高田昌幸〈上〉、同)

 が、

北海道新聞編集局の幹部が社内向けに説明したとされる「公務員などの犯罪は実名で報道してきた」「ダブルスタンダードはよくない」といった言葉は、必ずしも実態に即していない。警察官の犯罪ですら匿名で報じる以上、自社の記者逮捕を実名にした経緯は社内だけでなく、対外的にも明確に説明する必要があろう》(同)

と高田氏が言うのももっともである。

 上司に言われるがまま突撃取材をさせられ、逮捕されれば実名報道される。これほど新人を守る気がないのも不思議である。【了】