保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

皇位継承等の有識者会議について(5) ~権威を規定するのは歴史伝統~

《日本の皇位継承法に於て、女帝の制度の認められた歴史はあるが、女帝は常に配偶者の現存せざる場合に限られていたのであって、女系子孫の継承を認める思想は全然存在しなかった。日本皇室の万世一系とは、男系子孫一系の意味であることは論をまたぬ。然(しか)るに、女系の子孫(それが男であれ、女であれ)に対して、皇位が継承せられるとすれば、それは万世一系の根本的変革を意味する。われわれの断じて承認しがたいところである。然しながら現行憲法は、憲法自身としては皇位継承については、ただ世襲の条件を規定するのみであって、女系も亦(また)世襲と称することを得べく、かような根本的変革案も、合憲的に一片の法律の改変手続を以て行い得ることとなっているのである。

 将来を考えれば…第2条は天皇制反対論に軽々しく利用されるの憂なしとせぬ…天皇制そのものに反対する者は皇位継承法に更に根本的な変革案を提出するかも知れない。端的に云えば、“皇位継承者は、皇統に属する者の中から国会がこれを選定する”と云うような場合も考えられる。かような皇位継承法の変革案も、現行憲法は必ずしも拒否するものとは解せられぬ。かような変革案も、国会の一時的過半数を制しさえすれば、それだけで合法的に成立し得るのである。現に鈴木安蔵教授は、天皇世襲制度を廃するには、憲法改正が必要となるが、個々の天皇の廃立は、現行憲法下に於(おい)ては、議会で自由にできると論じている。

 皇位継承が、日本の国史でいかに重要な地位を占めて来たかを、深く反省せねばならない。皇位継承問題は、日本国家にとっても、国民の生活、国民の心理に対しても、決定的に重大なる意味を有する。その継承法は厳格に固守せられるべきであって、一時的政党政派の消長や、学説の推移等によって軽々しく動揺させられてはならない》(葦津珍彦(あしづ・うずひこ)『日本の君主制』(葦津事務所)、pp. 226-227

 <権力>を縛るのが憲法であり、それが「立憲主義」だと言われる。が、これを裏返せば、憲法によって縛られていない限り、<権力>は自由に振る舞えるということになる。そのため<権力>が<権威>の改変を迫るなどという横暴が顔を出すことになるのである。

 天皇の存在が憲法によって制度化されているかのような転倒が戦後日本において幅を利かせている。が、天皇憲法制定の遥か前から存在してきたのであって、憲法によって規定できるはずがない。

 また、憲法で<権力>は規定できても<権威>は規定できない。皇室の<権威>を規定するのは、歴史であり伝統である。【続】