保守論客の独り言

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皇位継承等の有識者会議について(4) ~伝統を憲法で論ずる勿れ~

《政府は10日、安定的な皇位継承策を議論する有識者会議(座長・清家篤慶応義塾長)の第4回会合を首相官邸で開いた。憲法や法律の観点から母方にのみ天皇の血筋を引く女系への皇位継承資格の拡大、旧宮家皇籍復帰などについて4人に意見を聴いた。

 女系への皇位継承資格の拡大について、国士舘大百地章特任教授(憲法学)は「2千年近い『皇室の伝統』を破壊するだけでなく、憲法違反の疑いさえある」と女系への拡大に反対した》(産經ニュース 2021.5.10 20:46

 <伝統>は安易に弄(いじ)るものではないという意味で、女系への皇位継承資格の拡大は皇室伝統を破壊するものだと言えるのかもしれないが、女系天皇を容認することによって具体的にどのような問題が生じる虞(おそれ)があるのかについてもう一歩踏み込んだ議論が必要だろう。

《岡部喜代子元最高裁判事(親族法・相続法)は「女系天皇を認めることが憲法違反であるとの説を採ることはできない」としつつ、女系への拡大は「強固な反対がある」として男系女子にとどめるべきだと結論付けた》(同)

 先発の皇室の伝統を後発の日本国憲法に照らして判断しても「無効」である。天皇は遠い昔から連綿と存在し続けてきた。それを今を生きる者たちが氷山の一角に過ぎない「形式知」だけで自分勝手に規定しようというのであるから不遜の極みと言うしかない。

《暗黙的認識をことごとく排除して、すべての知識を形式化しようとしても、そんな試みは自滅するしかない》(マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』(ちくま学芸文庫)高橋勇夫訳、p. 44

 自分が生まれる遥か前から代々受け継がれてきた伝統や慣習には最大限の敬意を払うのが後人の務めであり礼儀ではないか。

《京大の大石眞名誉教授(憲法)は「内親王・女王にも認めるとともに女系の皇族にも拡大するというのが、基本的な方向としては妥当」とする一方、男系男子で継承してきた「伝統」も重視すべきだと説明した》(同、産經ニュース)

 何をもって<妥当>と言っているのか分からない。<「伝統」も重視すべき>というのも、何故<男系男子で継承してきた>のかについてもう一歩踏み込んだ考察が必要だろう。

《東大の宍戸常寿教授(憲法)は「憲法第2条の世襲は女系を排除するものではなく、国事行為およびそれに準ずる活動は女系の天皇でも可能」と主張した》(同)

 伝統の問題を制定法で論ずるのは「倒錯」である。つまり、皇室の問題は、生者が制定する憲法典の水準で話すべきことではなく、「より上位の法」すなわち「慣習法」(コモン・ロー)の視点から考察すべきことだということである。確認すべきは、「国王といえども法の下にある」とする「法の支配」つまり「コモン・ローの支配」の原理である。

 4人の法専門家の意見は、残念ながら世俗の域を出るものではない。聖なる次元に関わる皇室問題を世俗的視点で語っても無理が生じるだけだ。【続】