保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

デジタル教科書について(2) ~強い懸念~

一方、デジタル教科書導入によって懸念されることは何か。

《最も指摘されるのは視力低下といった健康面の影響だ》(2月22日付産經ニュース)

 これも本質からずれている。また、これほどスマホが普及している中で、デジタル教科書によって視力が低下するのではないかなどと心配するのはどう考えても変だ。さらに言えば、視力が低下するほどデジタル教科書を見て勉強する子供達がどれだけいると考えているのだろうか。

 そんなことよりもっと本質的な議論が必要である。

《15歳を対象とした国際機関による2018年調査では、読解力テストの平均点について、日本は、本を「紙で読む方が多い」と答えた子供が「デジタルで読む方が多い」を大幅に上回った。デジタル教科書の使い方によっては、学習効果にマイナスの影響が出る可能性もある》(同)

というのである。実際、国立情報学研究所新井紀子教授は

「先駆けて『1人1台端末』やデジタル教科書を導入した自治体で、全国学力テストや高校入試実績において統計的に意味のある良好な結果は出ていない」(同)

という報告もある。

《米国の神経科学者メアリアン・ウルフ氏によると、欧州の若者17万人以上を対象にした研究では、デジタル機器より紙媒体で読む方が理解度が高かったという。

 ウルフ氏は「教育では、ゆっくり考え、共感力や批判的な分析力を身につけさせる必要がある」と述べ、脳の発達には紙媒体での学習が望ましいと指摘する。

 著書「スマホ脳」で知られる精神科医アンデシュ・ハンセン氏もデジタル化には慎重で、「やみくもに取り入れた自国のスウェーデンでは学習効果が落ちた。新しいというだけで優れていると思わない方がいい」と警告している》(2月25日付読売新聞社説)

 また、

《東京大のチームは、紙の手帳とタブレット端末、スマートフォンにイベントの日程を書き込む実験から、記憶の定着には紙が優位だとする研究結果を発表した。紙の教科書やノートを使った学習の効果を示すものだとしている》(3月29日付読売新聞社説)

 さらに、貧富の差による教育格差が生じるのではないかとの懸念もある。

《デジタル化によって教育格差が発生・拡大することのないよう、万全の手を打つ必要がある。

 たとえば、紙の教科書は国費で無料で配られるが、いまの制度ではデジタル版の費用は自治体が負担することになる。財政力の違いで新しい教材を活用できるところとできないところが生まれ、学力に差がつくようなことはあってはならない。

 自宅の通信環境も心配だ。配布された情報端末は安価で容量が小さく、デジタル版や関連教材を使うにはネットに接続する必要がある。自宅での学習も当然想定されており、家計の苦しい家庭には通信費が重くのしかかることになりかねない》(3月27日付朝日新聞社説)

 昨今の大学入試改革においても、学校の授業だけでは不十分な内容を問う傾向があり、家庭の貧富の差がそのまま学歴の差となりかねない懸念が高まっている。

 本来教育とは「頑張ったものが報われる」ものであるべきで、本人の頑張りよりも、どれだけ教育にお金を投資したかによって結果が変わってくるようでは貧富の格差が固定化されてしまうことになりかねない。

 拙速なデジタル教科書の導入には私は反対である。【了】