保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

いつまで「アラブの春」という幻想を抱き続けるのか(2) ~民主主義は白魔術~

《春という言葉が持つ響きとは裏腹に、中東は今日もアラブの春が残した内戦やイスラム過激派の台頭、それに伴う経済の悪化に苦しむ。世界はこの間、テロの拡散や難民の増加など、脅威は中東だけの問題にとどまらないことを目の当たりにしてきた》(12月19日付日本経済新聞社説)

 10年前にアラブの民主化運動は「春」ではなくむしろ「混沌」の序章であるといった警告を行っていたというのならいざ知らず、当時はアラブ民主化運動を褒め称(そや)し、今になって客観を装い分析を施すのは無責任である。

《各地で長期独裁政権が崩壊した後、人々が期待した民主化は実現しなかった。それどころか主導権をめぐって争う様々な勢力を、米国やロシアなどの大国や周辺国がそれぞれ支援し、内戦は大国や周辺国の代理戦争の様相を呈した。

なかでも、混乱の間隙を縫って影響力を拡大したのはイランだった。アラブの春の勝者はイランと言われるような地政学上のバランスの変化を生んだ》(同)

 果たしてアラブの人々は民主化を期待したのであろうか。彼らが混乱の後に得られるかどうか分からない民主化よりも、独裁専制の安定を選んだとしても不思議ではない。否、そもそも民主化が辿り着く絶対的目的地でもない。

 米国の混乱を見れば分かるではないか。民主化すれば上手く行くわけでもなければ、正義が実現されるわけでもない。

Many forms of Government have been tried, and will be tried in this world of sin and woe. No one pretends that democracy is perfect or all-wise. Indeed, it has been said that democracy is the worst form of government except all those other forms that have been tried from time to time.--Winston Churchill, November 11, 1947 (下院演説)

(多くの政治形態がこの罪と悲哀の世の中でこれまで試みられてきたし,これからも試みられるだろう。民主主義が完璧で非常に賢明であると言う人など誰もいない。実際,民主主義は,折々試みられてきた他のすべての形態を除けば最悪の政治形態だと言われてきたのである)

 民主主義はひょっとして最悪の政治形態なのかもしれない、が、今のところこれに代わる形態はない、と弁(わきま)える謙虚さが民主主義を機能させるためには必要なのではないだろうか。

 それどころか、昨今の世界情勢を鑑(かんが)みれば、シナをはじめとする権威主義が民主主義を追い抜かんばかりの勢いですらある。

《人間を不幸に追い込む魔術が黒魔術であり、ユーフォリア(どんな物事にも幸せを感じる病気としての多幸症)に誘い込むのは白魔術である。民主主義という戦後日本を彩る観念は、白魔術めいたものだといってさしつかえない。

つまり世論のムードによってであれ、民衆の直接的なムーヴメント(運動)やヴォーティング(投票)によってであれ、民衆が社会にかける圧力は何かしら良き事態をもたらす、と思い込まれてきたのである。ハッピネス(幸福)なんかはハプニング(偶発事)としてしか起こりえないのに、日々示される民衆の圧力が国民を幸福にするというのだから、これを病気と呼ばずして何と呼ぶのか見当もつかない》(西部邁『保守の真髄』(講談社現代新書)、p. 82)​【了】​