保守論客の独り言

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日本学術会議人事について(3) ~戦前の反省に立って設立された?~

国民民主党山尾志桜里議員は、自身のブログで「任命拒否には違法の疑いがある」と述べた。

《この任命制度が制定された際の政府答弁をみると、「私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右することは考えておりません」(手塚康夫・内閣官房総務審議官:1983年5月12日:参議院文教委員会)とある。また当時の中曽根康弘総理大臣自ら「これは、学会やらあるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎません」(1983年5月12日:参議院文教委員会)と述べている。

私の経験則でいうと、存在するのが前者の答弁だけであれば、政府は「『制度上は任命拒否できるけど、私たちはしない』ということを当時述べているにすぎない」と強弁するかもしれない。しかし後者のとおり、中曽根総理(当時)が「政府が行うのは形式的任命」と言い切っていることからすれば、内閣には実質的判断権を持たせない法制度として誕生したと解釈せざるをえないだろう。

その上で、例外的に任命を拒否する余地があるのかどうかについては、当時の議事録をさらう限り、今のところ定かではない。しかし、実質的判断権のないはずの内閣が、個別具体的に6名を任命拒否するという判断をしたという今回の行動について、違法の疑いがあることは否定できない》(「6名を追加任命した上で、臨時国会では本質的な議論を。」:2020/10/04 19:25)

 果たして<形式的任命>という37年前の内閣の「口約束」はどこまで有効なのか。この間、細川政権民主党政権自民党が下野することが2度あった。山尾議員は、これら非自民政権時も、自民党政権の過去の「口約束」を遵守しなければならないという立場なのか。が、それでは野党が政権交代する意味が薄れてしまわないか。

 新内閣が歴代内閣を踏襲するというのが基本であるし、法令は遵守されねばならない、ここまでは分かる。が、「口約束」のようなものまでも新内閣はすべて踏襲しなければならないのであろうか。それなら一層のこと、絶対にぶれないように、端から法律に書き込んでおくべきなのではないか。

《先の戦争で、多くの科学者が政府に協力させられた。軍部が湯川秀樹ら物理学者に原爆開発を命じたことは広く知られる。思想統制を進める上で障害となる学者は排除した。京都大の法学者が弾圧された滝川事件や、「天皇機関説」を唱える学者が不敬罪で告発された事件がその典型だ。

 こうした反省に立って、学術会議は作られた》(10月3日付毎日新聞社説)

 が、例えば、昭和28年11月20日付「​日本学術会議の所轄について(要望)​」にはそのような話は一切出て来ない。

《日本を文化国家として再建するには、科学の振興と行政の科学化が何にもまさつて必要だという考えから、当時日本の科学振興の任務を担当していた代表的な3つの団体(帝国学士院,学術研究会議,日本学術振興会)を改組すべきだという意見が有力となりました。そして、迂餘曲折を経た結果、昭和21年に、全国の科学者から選挙された108名のメンバーによる学術体制刷新委員会が成立しましたが、政府(片山内閣)は、これに対して、日本の学術体制を刷新するための案を作成答申すべき旨を諮問し、その費用を支出しました。そこで、右の刷新委員会は,昭和22年8月から活動をはじめ、各方面の意見を斟酌し、慎重審議を重ねた上で、翌年の4月に、学術体制の新しい構想を政府(芦田内閣)に答申しました。その答申の主要な内容は次の3点であります。

(a)日本学術会議法を制定して,日本学術会議を設けること。

(b)日本学術会議と緊密に協力し、科学技術を行政に反映させるための諸方策及び各行政機構相互の科学技術に関する行政の連絡調整に必要な措置を審議することを目的とする科学技術行政協議会を、内閣総理大臣の所轄の下に、設けること。

(c)基本的諸科学の振興に対し貴任をもつ行政機構を整備強化すること》【続】