保守論客の独り言

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アベノミクス検証について(4) ~トリクルダウン~

アベノミクスの恩恵を受けたのは、大企業など一部にとどまった。大企業や富裕層が潤えば、それが滴り落ちるように地方や中小零細企業にも行き渡る、という「トリクルダウン」理論のシナリオ通りにはいかず、かえって格差を広げている。多くの国民にとって景気回復の実感は乏しいものとなった》(9月1日付沖縄タイムス社説)

 この<トリクルダウン>という鍵言葉も当時よく聞かれたが、ほとんどの社説が忘れてしまっているようである。

 <トリクルダウン>は、大企業を救済するための政府の便法であったと考えるべきではないか。大企業が中小企業や労働者に利益を還元しようとしなければこの話は成り立たない。実際大企業は利益を十分に還元しなかった。が、大企業が倒産したり、リストラを敢行し大量の失業者が生まれるようなことだけは避けることができたと考えることも可能ではあるだろう。

《国と地方の借金残高は今年3月末で1100兆円を超え、政権発足時から200兆円近くも膨らんだ。20年度に財政を立て直す目標もあったが、首相は5年も延期した。膨大な「負の遺産」は将来世代に重い負担としてのしかかる。

 500兆円もの国債を持つ日銀の信用も揺らぎかねない。国債金利が上昇すると、巨額の損失を抱えるからだ。円が急落するなど経済が混乱する恐れがある》(8月31日付毎日新聞社説)

 確かに、日本ではこのように言われてきたのであるが、実は財政赤字に関して大きく分けて今3つの立場がある。元々は赤字が発生すれば、早急に黒字化で補うべきだとする「赤字タカ派」、長期的な財政均衡の必要性は認めつつ、景気の循環過程で財政均衡の実現を目指せばよいとする「赤字ハト派」があった。

 これに最近、資金需要には日銀が対応するのでクラウディングアウト(政府が支出を増やすことによって、民間の投資が抑制されてしまうこと)は一切起きず、政府の予算制約はなく、財政均衡は長期的にも必要ないとする「赤字フクロウ派」が加わった。

 赤字タカ派は反ケインズ派と呼ばれ、財務省・日本の主流経済学者がこれに属する。一方、赤字ハト派ケインズ派であり、リフレ派もここに属し、世界の主流経済学者が赤字ハト派である。さらに、ケインズか反ケインズかとは次元が異なるMMT(現代貨幣理論)が登場した。

 MMTによれば、日銀が国債を買い受けた政府の債務は返す必要がない。したがって<将来世代に重い負担としてのしかかる>ことはない。大量の国債を日銀が買い受けても日銀の信用が傷つくことなど有り得ないし、国債金利が上昇する道理もなければ、円が急落するなどというのも「妄想」だとされる。

 アベノミクス第2の矢が機能しなかったのは、当初赤字容認であったリフレ派が容認しない緊縮財政派に変わってしまったことにある。そしてMMTという新しい考えが登場しているにもかかわらず、これを「ブードゥー経済学」だと揶揄(やゆ)し拒絶するだけで、自らを省みない唯我独尊がデフレ脱却を拒んでいる、と私は思うのであるが…【了】