保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

アベノミクス検証について(2) ~アベノミクスの影~

《誤算の最大の要因は、賃金が伸び悩んだことだ。円安に伴い、大企業は輸出で潤った。だが国民には十分還元されず、景気の柱である消費は低調だった。

 格差問題も深刻化した。首相は雇用改善を強調したが、賃金が低い非正規労働者が大半だった。一方、株高の恩恵を受けたのは富裕層などに限られた。景気回復と言われても、多くの国民にとって実感が乏しかったのは当然だろう》(8月31日付毎日新聞社説)

 円安・株高がもたらしたものは、輸出依存型「ものづくり」産業の延命であった。が、残念ながら「ものづくり」産業はもはや斜陽産業であり新機軸に乏しい。利益をあげるためにはコスト削減が手っ取り早いとばかりに賃金が抑えられる傾向がある。よく言われる「人手不足」とは低賃金労働者の不足のことである。今の産業形態には特段の知識や技術を必要としない労働力が不可欠である。だから猫も杓子も働けということになり、外国人労働者が歓迎されるのである。

 アベノミクスという斜陽産業の延命策がなければ大量の失業者が世の中に溢(あふ)れていたかもしれない。が、ただ失業者が増えることを恐れて時計の針を逆戻ししてしまったことは大きな問題ではなかったか。

 賃金を上げるためにも「ものづくり」から「価値づくり」への産業構造の転換が必要なのである。例えば、車はただ人や物を乗せて移動できればよいというものではなく、外観のデザイン、快適な室内空間、何よりその車を所有することのステータスシンボルといった「付加価値」の優劣こそが問われているということである。

《首相は「政権安定の生命線」と位置づけた株価対策に力を注いだ。借金である国債を増やしてでも、財政の大盤振る舞いを繰り返した。日銀も国債を買い支えた。株価は2万円台に乗せたが、景気の実態とかけ離れた「官製相場」にほかならなかった》(同)

 私は、安倍政権が株価対策を「政権安定の生命線」と位置付けたなどということを寡聞にして知らない。また、毎日社説子は金融緩和による株高を<景気の実態とかけ離れた「官製相場」>だと批判するが、2012年末に第2次安倍政権が発足して以来、株価はずっと高止まりしており、これを「官製相場」と呼べるのか疑問である。

《「三本の矢」の中で最も期待を集めたのが成長戦略だ。その答えの一つが海外からの観光客の誘致だった。

 日本が伝統的に持つ「もてなす心」を活用した戦略は巧みで、中国を中心とした観光客の激増と大きな観光収入をもたらした。一時的とはいえ一定の経済効果を上げた点は評価すべきだろう。

 ただインバウンドと呼ばれた観光による効果はコロナ禍によってほぼ消失した。予測が難しかったとはいえ、極端に観光に寄り掛かった戦略のあり方には反省すべき点もあるのではないか》(9月2日付東京新聞社説)

 そもそも「観光立国」を目指すなどとして観光を成長戦略の1つに位置付けたのが間違っていたのではないか。私は、日本の伝統文化が多く保存された所を観光と称して礼儀のなっていない外国人に我が物顔で歩かれることを好まない。京都は閑静であるからこその京都だし、そうあった欲しい。【続】