保守論客の独り言

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川崎市ヘイト条例について(1) ~具体性を欠く議論~

《特定の人種や民族への憎悪をあおるヘイトスピーチをなくすため、全国で初めて刑事罰を盛り込んだ川崎市の差別禁止条例が今月、全面施行された。2016年施行のヘイトスピーチ解消法から一歩踏み込んだ独自の対策が、行き過ぎた言動への歯止めとなることを期待したい》(7月8日付山陽新聞社説)

 身近のことではない、したがって、事情がよく分からないはずの問題にどうして他県の地方紙が前のめりになって口を挟もうとするのだろうか。

ヘイトスピーチは特定の国籍や宗教、性的指向などの少数者に対する差別を侮辱的な言葉で表現するものだ。在日コリアンが多く住む地域で「殺せ」「犯罪者」などと連呼する街頭活動が頻発し、社会問題化した。中でも川崎市では激しいデモと反対運動が繰り返されてきた経緯があり、ヘイト解消法制定のきっかけにもなった》(同)

 巧妙な書き方である。山陽社説子は、川崎で<「殺せ」「犯罪者」などと連呼する街頭活動が頻発し、社会問題化した>とは言っていない。これは<在日コリアンが多く住む地域>一般の話である。では、川崎で繰り返されてきた<激しいデモと反対運動>とは具体的にどのようなものだったのか。川崎でも<殺せ>だの<犯罪者>だのという<ヘイトスピーチ>が繰り返されてきたのだろうか。

 好意的に解釈すれば、おそらく繰り返されてきたのであろう。でなければ罰則規定を盛り込んだヘイトスピーチ条例などわざわざ制定するはずがないからである。が、それならそう書くべきではないか。やはり山陽社説子は具体的状況がよく分からずに憶測でこの社説を書いているような気がしてならない。

 さて、今回の問題は、<ヘイトスピーチ>が許されるのかどうかというような倫理的な話ではない。「言論の自由」に抵触するのかどうかという法律論でもない。<ヘイト>か否かの線引きが、おそらくは曖昧かつ「恣意(しい)的」であるにもかかわらず、刑事罰を科すことにした横暴にあると言うべきだろう。これが危ういことは今更言うまでもない。

《条例は、公共の場でビラや拡声器を使った差別的言動を禁じた。違反者には、有識者でつくる審査会の意見を聴いた上で勧告、命令を順に出し、それでも従わなければ個人・団体名を公表すると同時に刑事告発する。検察と裁判所が相当と判断した場合に、50万円以下の罰金が科される。違反認定の手続きに慎重を期したと言えよう》(同)

 が、慎重を期したからヘイトか否かを気分次第で決め罰則を適用して良いということにはならない。【続】