保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

横田滋さん死去について(3) ~ゴルディウスの結び目~

北朝鮮の非道さを非難するとともに、日本政府には問題の解決へ向けた有効な方策を急ぐよう強く求める》(6月7日付朝日新聞社説)

 朝日もやっと北朝鮮を非難したかと考えるのはまだ早い。この日本語は曖昧である。語順を変えて、

日本政府には、北朝鮮の非道さを非難するとともに、問題解決へ向けた有効な方策を急ぐよう強く求める

とすれば、非難する主語が日本政府であることがはっきりするだろう

 ところで、<問題解決へ向けた有効な方策>とは具体的にはどのようなことを考えているのであろうか。韓国と同等の戦後補償を行い、まずは日朝国交を正常化し、その上で正式に拉致被害者返還交渉を行えというような話なのではないかと予測される。が、北朝鮮の現体制が維持される限り、国交が正常化しても永遠に拉致被害者は帰って来られはしないだろう。

《問題解決のため、日本政府も長い間努力したが、柔軟性を欠く対応も目立った。たとえば、この問題に精通しているはずの安倍晋三首相が、北朝鮮に圧力一辺倒の対応をしてきたことだ。

 2017年の国連演説で安倍首相は、対話は北朝鮮の時間稼ぎに使われたとし、「必要なのは対話ではなく圧力だ」と強調した。

 確かに北朝鮮の対応には不誠実な点があった。めぐみさんに関して不十分な資料を基に「すでに死亡した」と主張。本人の遺骨と称して偽物を送ってきたこともあり、日本国内で怒りが渦巻いた。

 ただ北朝鮮は、02年の日朝首脳会談金正日(キムジョンイル)総書記が正式に拉致を認め、謝罪している。もちろん拉致問題の解決に協力することも考えていただろう。

 当時北朝鮮は経済難に陥っており、日本からの支援を受け、困難を乗り切ろうとしていた。この首脳会談で結ばれた日朝平壌宣言にも、国交正常化実現後、日本が経済協力を行うと明記されていたことからも分かる。

 しかし、日本政府は拉致解決を国交正常化交渉の入り口に位置づけ、経済制裁を強化した。金総書記に謝罪をさせた「成功体験」にこだわりすぎたのではないか》(6月7日付東京新聞社説)

 <拉致問題の解決に協力する>って何だ。拉致した日本人を返すのは当たり前ではないか。東京新聞北朝鮮の機関紙なのか。

 北朝鮮は、拉致した日本人を、内部事情を知られた以上、返すことは出来ない。日本側の対応の問題ではない。

《家族会代表の飯塚繁雄さんは現状を「当たり前の流れだ。何も手を打たないで来た結果だ」と批判した。こうした声を安倍政権の政治家、官僚一人一人は重く受け止めるべきだ》(6月7日付北海道新聞社説)

 だったらどうするのだ。百名以上とも言われる拉致被害者をすべて奪還するには、おそらく北朝鮮の現体制を転覆させるより仕方がない。金正恩死亡説が流れる今がその好機だとも言えるのかもしれない。が、金王国が崩壊すれば、朝鮮半島情勢がどうなるか予測も立たない。難民がどっと押し寄せるなどといったことにもなりかねず予測したくもないだろう。核の問題もある。

― 〇 ―

ミダスはクリュギアの王でありました。そのお父さんというのはゴルディウスという貧乏な百姓でありましたが、彼らの未來の王は荷馬車にて來るだろう、という神託に基き、人民どもから推し立てられて王とされたのでありました。人民どもがその神託の主旨をいろいろと考えめぐらしているところへ、ゴルディウスが妻や子供を連れて荷馬車に乘って四つ辻に來たのだといわれています。

 ゴルディウスは王になると神託を下さった神に彼の荷馬車を獻じました。そうしてその神殿に堅い結び目を作ってその荷馬車を結びつけておきました。これこそ有名なゴルディウスの結び目で、後世に誰でもそれを解いた者は全アジアの王となるだろうといい傳えられた結び目であります。

 アレクサンドロス大王が征伐の路すがらプリュギアに來るまでは多くの人々が解こうと試みたけれども、一人として成功したものはありませんでした。彼はいろいろ手を盡して解こうとしたが、矢張り外の人々と同樣うまく解けませんでしたから、とうとうもどかしくなり、劍を拔いて結び目を切ってしまいました。

 後に全アジアをその勢力の下に屈服さした時、人民はアレクサンドロス大王こそ神託の其の意味に適合した人だったと悟りました。(『ギリシャローマ神話 上』(岩波文庫野上弥生子訳、p. 67)【了】