《リアリティー番組は、予測できない展開が視聴者を引きつけ、世界でも人気のコンテンツだ。「テラスハウス」も台本がないと宣伝していた。
しかし、実名で生身の自分をさらけ出すことになる。番組内で注目が集まれば、SNSなどで個人攻撃の的になる危険性もあった》(5月29日付毎日新聞社説)
<リアリティー>を自称するだけで「リアル」が保証されるはずもない。むしろ話は逆様であろう。「リアル」でないから<リアリティー>という看板を掲げるのである。
女優・小川紗良さんは言う。
《本来リアリティとは、あくまでも「リアルっぽい」もののことであって、決して「リアル」ではない。だから「リアリティショー」と言っている時点で、それは演出され作り上げられた世界であり、現実とは全くの別物である》(『小川紗良の自由帳』 2020/05/28 08:52)
たとえ誠実に「リアル」な番組を作ろうとしても、テレビカメラの前でリアルな恋愛など行えるはずもない。そう考えるのが常識と言うものである。<台本>がなかったにしても、事前に<ストーリー>が決まっていたのだとすれば尚更(なおさら)である。
『テラスハウス』は、「恋愛」という題材を通して、「妬(ねた)み」や「嫉(そね)み」といった日頃は抑圧された視聴者の情動を呼び起こし、SNS等で炎上させて話題化するところまでが一式となったテレビ番組だったと思われる。したがって、SNSだけを切り離して問題視するのは的外れと言うより他はないのである。
《憎しみは積極的な不満で、嫉妬は消極的な不満である。したがって、嫉妬がすぐに憎しみに変わっても怪しむに足りない》(『ゲーテ格言集』(新潮文庫)、p. 27)
そして興奮を高めるために用意されたのが、プロレスで言う「ヒール」と呼ばれる「悪役」、それが木村花さんであった。
現役制作スタッフは言う。
「出演者同士の衝突が期待通りの結果を生まないと、SNSで誹謗中傷を始める視聴者や、それに同意する視聴者が心ない言葉を拡散し始めたのです。当然、出演者たちは傷ついていきますが、SNS上での注目度が上がっていくことを喜んだわれわれは、目を背けていたところが少なからずありました」(『NEWSポストセブン』5/27(水) 16:00配信)
「われわれスタッフから『もっと怒鳴り合って!』と指示を出すこともありました。昨年のある放送回では、嫉妬を映像で見せる演出に花さんを使いました。1人の男性を奪い合う形で、露骨に女性同士が目の前でアプローチをして嫉妬をさせ合うんです。当の本人は頼まれてやっていたとしてもメンタルがすごくつらかったと思います…」(同)【続】