保守論客の独り言

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緊急事態条項は憲法に必要か(4) ~占領下帝国議会の金森答弁にすがる人達~

《コロナ禍を利用した改憲論はナンセンスと考えます。不安な国民心理に付け込み、改憲まで持っていこうとするのは不見識です。現在、国会議員に感染者はいません。ならば今後、感染しないよう十分な防護策を取ればよいだけではありませんか》(5月3日付東京新聞社説)

 新型コロナ感染だけが緊急事態なのではない。どうしてこのような議論になるのか理解に苦しむ。

 明治憲法にはあった緊急事態条項を、なぜ日本国憲法は採り入れなかったのか。その答えが、帝国議会での金森徳次郎憲法担当大臣の答弁にあるという。

「民主政治を徹底させて國民の權利を十分擁護致します爲には、左樣な場合の政府一存に於て行ひまする處(処)置は、極力之を防止しなければならぬのであります。

言葉を非常と云ふことに藉(か)りて、其の大いなる途を殘して置きますなら、どんなに精緻なる憲法を定めましても、口實(実)を其處(そこ)に入れて又破壞せられる虞絶無とは斷言し難いと思ひます。

隨(したがつ)て此の憲法は左樣な非常なる特例を以て──謂はば行政權の自由判斷の餘地を出來るだけ少くするやうに考へた譯(わけ)であります」(第90回帝国議会 衆議院 帝国憲法改正案委員会 第13号 昭和21年7月15日)

 が、政府が暴走するのを恐れてばかりいては、緊急事態が起こったとき、これに対応できるのか甚だ疑問である。

「隨て特殊の必要が起りますれば、臨時議會を召集して之に應ずる處置をする、又衆議院が解散後であつて處置の出來ない時は、參議院の緊急集會を促して暫定の處置をする、同時に他の一面に於て、實際の特殊な場合に應ずる具體的な必要な規定は、平素から濫用の虞なき姿に於て準備するやうに規定を完備して置くことが適當であらうと思ふ譯であります」(同)

と金森大臣は言っているが、これは想定内の緊急事態における対応方針であって、これだけでは想定外の緊急事態に対応することは出来ないだろう。

《ひどい権力の乱用や人権侵害を招く恐れがあることは、歴史が教えるところです。言論統制もあるでしょう。政府の暴走を止めることができません。だから、ドイツでは憲法にあっても一度も使われたことがありません》(同、東京社説)

 使われたことがなくともドイツ憲法には緊急事態条項が在る。そのことがいざという時、重要なのである。また、歴史というものをただ自分勝手に解釈し、権力は暴走するものだと決め付け、だから緊急事態条項が不要であるという立論は恣意的に過ぎるだろう。【続】