保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

施政方針演説について(3) ~大局観なき議論~

与野党は、日本の将来像を大局的に論じなければならない》(1月21日付読売新聞社説)

 指摘自体は正しいと思うが、それを読売新聞に言われても困りものだ。が、今の日本に「森友」だ、「加計」だ、「桜」だ、などと戯(たわむ)れている暇がないのもまた事実である。

《将来世代が社会保障の恩恵を受けられるよう、制度の持続性を高める方策が必要となる。高齢者や女性が働きやすい環境を整備することが不可欠だ。

 出産や子育てへの支援を拡充して、深刻な少子化に歯止めをかけることも重要である》(同)

 果たして少子化は、出産、子育て支援が足りないことによるものであろうか。最大の問題はやはり「金」ではないか。1人の子供を産み育てるのに掛かるお金は3千万円というデータもある。だとすれば、かつては日本を支えてきた中流層の貧困化が少子化の原因ということになる。

 更なる問題は、社会から活力が失われていっていることである。個々人が「蛸壺化」していっていると言ってもよい。いずれにせよ、家族や地域社会といった国と個人の間にある「中間社会」を立て直すことが必要なのだと思われる。

《演説で、首相は、科学技術の進歩に伴う第4次産業革命に、国として取り組む方針を掲げた。若手研究者に資金を重点的に配分することや、通信技術の進展を後押しする意向を示した。

 成長戦略を強化し、生産性を高める狙いは妥当である。ただ、具体的な政策内容は総花的で、目新しさを欠く。施策を絞り込み、予算と人材を大胆に投じる。攻めの姿勢を貫いてもらいたい》(同)

 <成長戦略>とは何をどう成長させることなのか。将来に向けての国家像を描くことが先だ。これから日本をどのような国家にしたいのか、そのことをしっかり議論すべきである。自国第一の米国にいつまでも追従隷属し続けるわけにはいかない。

 一方、産經主張子は勇ましい。

《首相が国会で、日本が直面する難題とその打開策を正面から説かないでどうするのか》(1月21日付産經新聞主張)

 <直面する難題>とは何か。

通常国会が召集され、安倍晋三首相が令和初の施政方針演説を行った。だが、国の基本に関わる皇位の安定継承問題への言及はなく、安全保障の根幹をなす対中政策についての説明は不十分だった》(同)

 おそらく真っ先に上げなければならないのは、「戦後体制からの脱却」ということではないか。言い換えれば、米国隷従を改め、本当の意味での自主独立を果たす。その延長線上に、皇室問題もあるし、憲法問題もある。産經主張子はこの大問題から目を逸らしてしまっている。

皇位継承は「国のかたち」そのものに関わる。男系(父系)継承が貫かれてきた最重要の原則が国民に広く知られていない問題がある。首相は過去の国会などで「男系継承が古来、例外なく維持されてきた重み」を語ってきた。具体的な安定策の検討に入る今年こそ、さまざまな機会をとらえて国民に説いていくべきである》(同)

 本来は天皇とはいかなる存在かを国民に知らしむべきである。が、それが難しい。

《子曰わく、民は之に由らしむべし。之を知らしむべからず》(論語:泰伯第八)

(兎に角訳はわからぬが、あの人のすることだから俺はついて行くのだ、という風に民衆が尊敬し、信頼するようにせよ)(安岡正篤論語に学ぶ』(PHP文庫)、p. 97)

 「天皇制」ならぬ「天皇の存在」については稿を改めたいと思う。【了】