保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

元日社説読み比べ(6) ~「イノベーション」を煽る「死の舞踏」~

《第1になすべきは企業の変革である。社会保障などを担う国の体力を強くするには、産業競争力を高めねばならない。人事制度の見直しに着手した会社は多い。デジタル化やグローバル化は、従来通りのやり方では対応できないことに気づいたのである。

生産性を引き上げてイノベーションを起こすには、たこつぼの組織を壊し、外部人材を起用し、意思決定の速度を上げることが欠かせない。競争環境の変化を先取りし、攻める分野に資源を集中する事業の棚卸しも必要だ。

経営陣が改革を進めるには、年功賃金の見直しや多様な雇用形態の実現などが必要だ。「働き方改革」が進めば女性は出産、育児がしやすくなる。夫も育休取得や家事参加に積極的になるだろう》(日本経済新聞

 この破茶滅茶な文はなんだろう。国語的にも違和感があるが、何より「改革」の寄せ集め感が半端ない。

 <社会保障などを担う国の体力>って何だ。<企業の変革>とは本来「私的」なものであり、<国の体力を強くする>ために行うようなものではない。もしこのようなことを「公的」なものとして言うのであれば、それは「設計主義」であり「社会主義」である。

 実際、<産業競争力を高めねばならない>とまで言うのであるから、日経社説子はおそらく設計主義者ないしは社会主義者ということなのであろう。が、中身がない。まさか<人事制度の見直し>によって<産業競争力>を高めるということなのだろうか。

 <生産性を引き上げてイノベーションを起こす>というのも良く分からない。今時「安物のコンサルタント」でも、<たこつぼの組織を壊し、外部人材を起用し、意思決定の速度を上げる>ことが<生産性を引き上げ>、そのことによって<イノベーションを起こす>などとは言わないであろう。齧(かじ)りさしの用語を並べるだけで<イノベーション>を起こせるなら苦労はないのである。

 ジョセフ・シュンペーターは「創造的破壊」と言った。が、これを「旧きものを破壊すれば新しきものが生まれる」と解釈してはならない。「新しきものが旧きものに取って代わる」という意味に解するべきなのであって、新しきものが準備されぬまま旧きものを壊してしまえば「後退」するだけである。

 やれここが問題だ、やれ問題はそこにあると、今あるものを槍玉にあげ、「ダンス・マカブル」(死の舞踏)さながらに<破壊>を嗾(けし)ける。が、本来あるべきは、為すべきことの提言であり、その手法でなければならない。つまり、具体的かつ建設的な「代替案」が求められるのであって、それが周りに受け入れられてはじめて新旧交代が行われるのである。

 <イノベーション>を呼号するだけでは何も変わらないし、変えられないのである。【続】