保守論客の独り言

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PISA:読解力低下について(5) ~早期英語教育より国語教育を優先すべし~

《よく引用されるものに2つの調査があります。

 ひとつは「小学校英語推進派」であるJASTEC(日本児童英語教育学会)のプロジェクトチームが行なった調査です。

 これは小学校で英語を学んだ中・高校生と、そうでない中・高生、849人を対象に英語技能の熟達度について調べたものです。

 その結果、英語の「発音」「知識」「運用力」いずれにおいても、両者の間に目立った差がないことが判明したのです。この結果を受けて、調査を行なった樋口氏などでさえも、「小学校での英語学習の成果は『この程度なのか』と思われるかもしれない」と認めています。

 もうひとつの調査は、静岡大学の白畑知彦教授によるものです。この調査は私学が対象ではなく、国際理解教育の研究開発校に指定された小学校で4年生以降に週1時間英語を学んだ子どもと、そうでない子どもとを対象に、中学1年生の冬に英語力を調べたものです。

 その結果もまた同様に、「(「r」音と「l」音の聞き分けなどの)音素識別能力」「発音能力」「発話能力」いずれにおいても、両者の「英語運用能力は全く変わらないというものであった」というものでした》(鳥飼玖美子『危うし! 小学校英語』(文春新書)、pp. 12-13)

 英語学習を始めるのは早い方がよいというのは実証的研究に基づかぬ「都市伝説」のようなものである。

 評論家の金美齢女史も早期英語教育に異を唱える。

「私は大学で英語を教えていたことがあるのですが、その経験から言っても、外国語を操る能力は母語のそれに正比例します。日本語ができなくて英語ができるわけがない。日本人として生まれ日本で暮らしていて、日本語がろくにできないのに英語ができるなんて絶対にあり得ません。小学3、4年生から英語をやったって身につくはずがない。まずは国語をしっかりと学び読解力をつけなければ、英語だって上達しません」(デイリー新潮12/22(日) 11:01配信)

 渡部昇一氏は、「外国語の前には国語がある」「国語をマスターしないかぎり何もマスターできない」と主張する。

《国語をマスターするためには外国語を正確に理解し、的確な翻訳をする訓練を積むことです。非常にパラドキシカル(逆説的)ではありますが、それがいちばんの早道なのです。

 外国語と日本語では構造が異なります。英語表現の様式は日本語とはまるで違います。そのとき、英文法をたどりながら、英文を日本語に置き換える作業をするというのは、じつは日本語と格謝していることなのです。したがって、英文和訳は日本語との格闘であり、もっといえば、英文法を理解したり英文を読解することを通じて、高い知力を養う訓練をしていることなのです。

 また、日本語を英語に訳すことは、日本語という主語がなくても成り立つ言葉を、主語がなくてはならない英文にするわけですから、自分がいわんとすることを頭のなかで噛み砕いて相手に通じるように配列し直さなければなりません。この作業もどれだけたいへんな知力の訓練になることか》(渡部昇一『英語の早期教育・社内公用語は百害あって一利なし』(徳間書店)、pp. 104-105)

 元国立市教育長で教育評論家の石井昌浩氏は言う。

「(優先しなければならないのは)学習の土台である『読み書き算盤』で、小学校ではこの基礎的な学習を中心にすべきです。これが身につき、日本語で読解し、思考する力があれば、外国語はその応用で習得できるでしょう。英語の授業は中学校からで充分で、『グローバリズム』を錦の御旗にした根拠なき英語教育の早期化は、国際人を作るどころか、空洞化した人間を育ててしまうだけです」(デイリー新潮、同)

 多くの日本人は将来英語を日常的に使うような環境に身を置くことはないだろう。にもかかわらず、国語を疎かにして英語を優先するのはなぜか。なぜなのか。【了】