保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

最低賃金引き上げについて(1) ~最低賃金引き上げの原点とは?~

《今年度の最低賃金の引き上げの目安額が決まった。これにより全国の最低賃金の加重平均は時給901円、東京と神奈川では1千円を超える見通しだ。このペースで引き上げが続けば、4年後には政府目標の「全国平均1千円」もみえてくる。

 だが、比較的最低賃金が高く労働者人口の多い都市部が、全体の平均値を押し上げているに過ぎない。普通に働けば、誰もが暮らせるようにする。最低賃金引き上げの原点に立ち返れば、底上げのためのより踏み込んだ取り組みが必要だ》(8月1日付朝日新聞社説)

 果たして普通に働いて現在の最低賃金で暮らしが成り立たない人たちは日本にどれくらいいるのであろうか。

 憲法25条でいうとろこの「健康で文化的な最低限度の生活」をどの程度のものと見るのかによって話は変わってくるのかもしれないが、今の話は、「健康で文化的な最低限度の生活」が営めないから最低賃金を引上げるというよりも、「より健康で文化的な生活」を送るための手段として最低賃金を上げようという話なのではないかと思われる。

 的を外した議論では成るものも成らなくなってしまう。最低賃金を上げなければ多くの人が路頭に迷いかねないというのなら何としても上げなければならないが、そうではなくて最低限の生活は出来ているにしても、もっとより健康的で文化的な生活を築くために最低賃金を上げようとしているのだとしたら、話は変わってくる。

 労働者の観点から見れば、最低賃金が上がることに越したことはない。が、それは雇用者側目線からすれば、特に、中小企業においては経営を圧迫することになりかねない。

最低賃金は過去3年、「毎年3%程度」という安倍政権の方針に沿って引き上げが続いてきた。今年の「骨太の方針」では、「全国平均1千円」という目標のより早期の実現と、地域間格差への配慮も掲げられた。

 これに対し、中小企業の経営者団体が公然と反対し、引き上げ率は結局、例年とほぼ同じ約3%に落ち着いた。(中略)

 もちろん、急激な引き上げに中小企業がついていけず、職を失う人が出ることがないよう、配慮は必要だ。中小企業の生産性を高めるための支援や、大企業と下請けの取引条件の改善などを進めねばならない》(同)

 人件費が上がれば、中小企業は採算がとれなくなり、最悪倒産ということにもなりかねない。そのことによって失業者が増えてしまっては元も子もない。

 また、最低賃金を上げれば、中小企業が採算がとれなく可能性があり、これを公的に支援せよという話もボタンを掛け違えた話だと思われる。中小企業の採算がとれなくなるような最低賃金の引き上げは無効である。

 否、そもそも<中小企業の生産性を高める>などという話を簡単に言わないで欲しい。「アベノミクス」と称される金融緩和によって、円安となり、円高では採算がとれない、輸出依存型の斜陽産業が延命することとなった。

 かつてのような円高であれば、新たな産業を生み出すべく積極的な研究開発や設備投資も必要であったが、円安となってしまった今、その必要もなくなり、あるのはコスト削減だけとなってしまった感がある。【続】