保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

老後「2千万円」問題について

《夫婦の老後の資産として2千万円が必要になるとの、金融庁が先に公表した報告書だ。65歳の夫と60歳の妻の場合、年金収入だけでは毎月5万5千円、30年で約2千万円が不足する――。そんな試算に基づき、貯蓄や資産運用の必要性を呼びかけた。

 「年金は『100年安心』はうそだったのか」「勤め上げて2千万円ないと生活が行き詰まる、そんな国なのか」。野党の追及に、首相や麻生財務相は「誤解や不安を広げる不適切な表現だった」との釈明に終始した》(6月11日付朝日新聞社説)

 本当に毎月5万5千円不足するのかどうかは家庭によって異なるだろうし、この異なるはずの数字を平均寿命以上に30年生きたと仮定して約2千万円不足などとわざわざ多く見せ不安を煽(あお)る必要がどこにあるのだろうか。これは明らかに情報操作であろう。官僚が漏らした不都合な事実を野党が追及するのはよくある構図である。

 2004年の年金改正において、「100年安心年金」と言われる現行の年金制度をつくり上げたのが坂口力厚生労働大臣(当時)であったが、当時も相当つるし上げを食らっている。今更「年金は『100年安心』はうそだったのか」などと「かまとと」ぶって信じていたような振りをするのはやめてもらいたい。

《野党は報告書について「『100年安心』は嘘だったのか」と揚げ足取りに終始している。だが公的年金は元来、老後資金の全てを賄う設計とはなっていない。この大原則は民主党政権時も同様で、知らないはずはない》(6月12日付産經新聞主張)

 果たして国民は自分が収めた保険料以上に年金をもらって年金が破綻しないなどと虫の良いことを考えているのか。

公的年金は、現役世代が今の高齢世代を扶助する仕組みである。今後は高齢化が進むのに伴い、給付の抑制も予定される。現役世代にどこまで負担を求め、高齢世代への給付をどう抑えれば理解を得られるのか。今はその難しいかじ取りを迫られている》(同)

 このままでは年金制度は間違いなく破綻する。「100年安心」などというのが批判逃れであることは誰もが分かっていることである。が、これを改め国民に痛みを理解してもらうのは、どの政党にとってもやりたくない仕事である。社会保障制度改革は、与野党の垣根を越えて議論し解決すべき問題である。政争の具にするような問題ではないことは言うまでもない。

《野党は、公的年金に対する無用な不信を広げるような言動は慎むべきである。政府・与党も報告書の撤回でお茶を濁し、少子高齢化で迎える厳しい現実から目を背けてはならない。年金の長期的な給付水準を示す財政検証を早期に示し、与野党で幅広い真摯(しんし)な議論を進めるべきである》(同)