保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

難航する英EU離脱について(1) ~国民投票に決定を委ねたツケ~

《英国議会が欧州連合(EU)からの離脱を巡る採決で、否決や修正を重ねた揚げ句、離脱の延期を決めた。この結果、英政府はEUに対し今月29日に予定された離脱日の延期を要請することになった。

 EUが受け入れれば、経済や社会の混乱を招く「合意なき離脱」はとりあえず回避される》(3月16日付毎日新聞社説)

 当面「合意なき離脱」という最悪の事態は回避できたにせよ、離脱に際しての根本的な障害の除去の目途が立ったわけではない。

《障害となっているのは、英領北アイルランドアイルランドの国境管理の問題だ。

 離脱協定案では、この問題を解決できない場合、英国がEUとの関税同盟にとどまり続けることから、強硬離脱派は「主権の完全回復ができない」と反発した。

 国民投票の際は、有権者に明確に示されていなかった争点だ。専門知識を踏まえた議会での慎重な討議ではなく、国民投票に決定を委ねたツケは大きい》(3月16日付読売新聞社説)

 議会における離脱賛成派の意見と反対派の意見が一定出尽くし、それぞれの意見が拮抗し前へ進めなくなった場合、間接民主制における禁じ手としての「国民投票」を行うということは最終手段として有り得なくもないのかもしれない。

 が、ただ賛成派、反対派双方の説得力の欠如を補おうと安易に民意を借りようとするのは「議会制民主制」の自殺行為である。英国のEU離脱という複雑な問題を"pro or con"(賛成か反対か)の単純な二択で国民に問うてどうなるというか。

《深まった混迷の根本的原因は、英国政治の機能不全にある。

 メイ首相がEUとの折衝の末、アイルランド国境問題で修正を加えた離脱協定案は、「完全な主権回復」を譲らぬ党内の強硬離脱派の造反で葬られてきた。退陣論はあるが、保守党議員が様子見を決め込み、火中のクリを拾う気概ある次のリーダーは出てこない。

 有効な代案を示せない野党・労働党のコービン党首の信任も落ちている。1月末の英世論調査によれば、8割超は「政治支配層全体が国を誤らせた」と答えた。政治家は英国の未来より党利党略を優先させている。そう国民は愛想を尽かしているのではないか》(3月16日付産經新聞主張)

「政治支配層全体が国を誤らせた」とは言っても、その政治家を選んだのも国民である。つまり、現在の英国の混迷は、独り政治家だけにその責を帰すべきものではなく、国民国家全体の問題と見做(みな)すべきものである。否、国民自身の不作為がこのような事態を招いたのだと考えなければ最終的な問題の解決には至らないのではないか。【続】