保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

いたずらに労働人口減少を煽る日経社説(3) ~「価値」を創り出す人を生み育てる場~

《1人あたりの付加価値を高めるには働き手の能力開発がより大切になる。公共職業訓練を産業構造の変化に合わせた内容に改めるなど、社会人の学び直しの支援をもっと充実させるべきだろう》(1月15日付日本経済新聞社説)

 人工的な<能力開発>によって高められる<付加価値>など高が知れている。こんなことにいくら力を入れても地球規模の競争には勝てないだろう。描いている絵が小さ過ぎるのである。

 ゲーテは言った。

シェークスピアの偉大さの多くは、その力強い偉大な時代から生まれたものなのだ。このことを信じようとしない者は、1824年の今日のイギリスにおいて、この侃々諤々(かんかんがくがく)の分裂したジャーナリズムの横行する悪い時代に、あのような驚嘆すべき人物の出現がはたして可能であるかどうか自問してみればよいのさ》(エッカーマンゲーテとの対話(下)』(岩波文庫)、p. 42)

 いかにして<力強い偉大な時代>を創るのか、そのことの方がはるかに本質な問題なのではないか。

《偉大なものは、ひたむきで、純真な、夢遊病者のような想像力によってのみ生み出されるものなのだが、そういう想像はもうまったく不可能になっている。今日の才能ある者たちは、みんな大衆の前にさらされている。毎日50もの都市で発行されている評論紙や、それをめぐって大衆の間でかわされる饒舌は、なんら健全なものをもたらしていない。今日では、そんなものからすっかり身を引いて、無理をしてでも孤立しないかぎり、駄目になってしまうよ。たしかに、低俗で、大部分は否定的なジャーナリズムの文芸批評によって、一種中途半端な文化が大衆の間に出現しているけれども、それは、ものを産み出す才能にとっては有害な霧であり、その想像力の幹の上にふりかかって、その緑葉の装飾から一番奥の心髄、一番奥にひそんだ繊維にいたるまで破壊しつくしてしまう毒なのさ。

 その上、このくだらない数百年の間に、生活自体がなんと手垢にまみれ、虚弱になってしまったことだろう!どこへ行けば、今なお独創的な天才が素っ裸でわれわれを迎えてくれるというのか!こうしたことはまた詩人にはねかえって行く。外界から詩人は完全に見捨てられるから、詩人は一切を自分自身の内に見出さなければならないのだ》(同)

 AIやロボットが進化することによって、単純労働の多くが人間にとって代わるような時代はそう遠くない未来にやってくるだろう。問題としなければならないのは、労働者の数ではなく質である。「価値作り」社会に求められるのは、言うまでもなく「価値」の創造であって、「価値」を創り出せる人間をいかに創り出すのか、そのことが問われているのである。

「価値」の創造者を生み育てる静謐(せいひつ)なる「場」こそが今求められているのだと私は思うのである。【了】