保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

各紙元旦社説批評(3) ~周回遅れの凡庸記事~

《コンピューターが発達し続ける先には、人工知能(AI)が人間の能力を超える時点があるという。米国の未来学者レイ・カーツワイル氏は、それを「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼び、2045年までに到来するとしている》(京都新聞

 「シンギュラリティ」については毎日社説も触れている。

脳科学者の茂木健一郎氏は「情報爆発と個々人の処理能力のギャップに目をつけると、悪用を含めいろんなことができる。その意味でAIが人間を超すシンギュラリティーはすでに起きている」と指摘する》(毎日新聞

 私も昨年、この問題を取り上げたことがある。

《面倒な仕事はAIに任せ、人間は富とゆとりを享受できるようになるのなら、ユートピアの出現だ》(長辻象平人工知能という絶望と欲望」:2017年1月8日付産經新聞9面「論説委員日曜に書く」)

 が、そんな甘い話はない。

《AIが稼いだ利益は、優先的に次の最新AIの調達に充てられる。「優勝劣敗」こそが、冷徹な機械主導のAI社会を貫く生存競争の法則だ》(同)

 AIが稼ぎ出した富を受け取るどころか、人間が稼いだ富すらAI開発に吸い取られる可能性すらある。人間はAIに仕事を奪われ、さらにはお金も奪われるということにもなりかねない。だとすればAI社会は「ユートピア」(理想郷)どころかその正反対の「ディストピア」となるかもしれない

(2017年3月11日付楽天ブログ)

 が、京都社説子は的外れの意見を接ぐ。

《そんな時代が来ても、社会を動かすのは人間のはずだ。人が人に働きかけ、理解と共感を得て合意形成し、物事を前に進める。大昔から繰り返されてきた人間の意思決定のあり方である。

 だが実際には、相手の反発を恐れたり、目先の利益を優先したりして、実行をためらうことが少なくない。未来社会の予測が難しいのは、こうした人間の「都合」が本来なすべき行為を阻むためだ。AIが進化しても、人間の都合を読み切るのは簡単ではあるまい》(京都新聞

 AIがもたらずはずの「ユートピア」を人間が阻害すると言いたいのだろうか。

 毎日新聞も論点がズレている。

《インターネットが普及し始めた当初、IT(情報技術)は情報格差をただし、人を水平方向につなぐ技術と思われていた。「eデモクラシー」という夢の構想も語られた。

 ところが、ビッグデータとAIの組み合わせは、巨大IT企業群とユーザーを垂直に再編している。

 政治的に見れば、SNS(交流サイト)は人びとの不満を増幅させて社会を分断する装置にも、権力者が個々に最適化させたプロパガンダを発信する道具にもなり得る。

 民主主義の価値は試行錯誤を重ねるプロセスにある。人間は一人ひとり違うからこそ、対話を続けて集団の共感を維持しようとする。処理の速さと分類を得意とするAIとは根本的なメカニズムが異なる》(毎日新聞

 AIだってそれぞれ特性を持ち、<対話を続けて集団の共感を維持しようとする>ことも、おそらくは将来可能となることだろう。AIの問題を現在の地平だけで考えるのは間違っている。AIが人間にとって明るい未来をもたらすのか、それとも暗黒の世界をもたらすのか、そういった問題に踏み込まねば意味がない。

人工知能が究極まで進化すれば、人類の100%が失業する可能性もないとはいえない。「創造的」な仕事もロボットがすることになれば、人類は完全に自由になるが、しかし完全に無収入にもなる。どうしても無人企業が生み出す収益を適切に分配し、余暇を楽しむ全人類を生活させる一種の共産主義が必要となる。

ところが従来の共産主義が夢に過ぎず、その過程の社会主義的分配が強権と官僚主義を招くことを、人類は既に学んでしまった。この弊を避ける知恵を現在の人類は持たないから、ここでも新しい深遠な英知を将来の人工知能に期待するほかはあるまい》(山崎正和『地球を読む』:「人工知能の開発」~「薔薇色」実は深刻な問題~:2017年2月26日付読売新聞1面)

 「新しき事」を取り上げるべき新聞が周回遅れの凡庸な社説を元日に掲げるようではいやはやである。【了】