LGBT問題は弱者救済であるからして左寄りの人達が熱心なはずの課題である。が、それが「同性婚」を認めよという話になると、そっぽを向く人もいる。
上野(千鶴子) 最近、パクス法というもんが、おフランスというところにできたそうで、はしゃいでる人もいてはるけど。
小倉(千加子) パクス法?
上野 おフランスで、性別を問わず、パートナーとして認めた人に、婚姻上の夫婦関係に認められたすべての法的な権利を与える、と。小倉さんは知らない? あ、遅れてますね。
小倉 いや、アメリカのどっかの州でもありますよね。オランダでもありますよね。
上野 アメリカではカリフォルニアなど一部の州だけなんですけど、フランスはお国が決めた。
小倉 それをどう思うかって聞いてるの? 賛成か反対かって聞いてるの?
上野 ええ。
小倉 反対ですね。
上野 私は「あほくさ」と思います。
(上野千鶴子・小倉千加子『ザ・フェミニズム』(ちくま文庫)、pp. 109-110)
マルクスフェミニストの上野女史は、阿呆臭いと思う理由を次のように話す。
上野 別姓だろうがなんだろうが、要するに異性愛のカップルに法的な特権と経済的な保護を与える、という制度そのものがナンセンスやからやめなはれ、と。で、異性のカップルで、二人で末長く仲良く、お互いにルール破りをしないで、一穴一本主義でやりたい人は趣味でやったらよろし。そんなものに法的な届け出や保護を求めなさんな、ということですね。
小倉 「異性の」いうたら、さっきのパクス法は? 誤解されますよ。
上野 パクス法も同じこと。パクス法の場合も、結局は異性愛のカップルというモデルにそれ以外の人を合わせて、そこに取りこもうとするやり口だと思う。同じですよね。
小倉 同じですよ、夫婦別姓もそのパクス法たらも。ありとあらゆる手段を尽くして、結婚の間口を広げてはるのね。ドンドン入ってきて、と。
上野 自分の性関係をいちいち、なんでお国に届けなあかんのや。これから一生この人とだけやります、とか、キャンセルしました、とか、なんで言わなあかんのよ、あほらしい。
小倉 やっぱりカップル幻想っていうのはすごく根強いし、その法律によって保障されたい、っていう究極的な人間的な弱さがあるかぎりね……。
上野 違いますよ。法律によってカップル幻想を保護されたいだけじゃなくて、結婚にははっきりした経済的な利点があるんです。届け出婚はトクなんです、ありとあらゆる面で。税金、年金すべての面で。(同、pp. 113-114)
現行の社会制度を資本主義社会の残滓(ざんし)のごとくバッサリと斬り捨てる上野女史の徹底したフェミニズム論も面白いのであるが、私は小川榮太郎氏のLGBT問題は政治ではなく文学が担うべき問題であるという提起の方に興味が湧く。【続】