保守論客の独り言

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自民・下村氏の「職場放棄」発言について(1)~不活性な憲法論議~

臨時国会は10月24日に召集されたが、衆院憲法審査会は与党側の呼びかけにもかかわらず、野党側の消極姿勢によって一度も開かれていない。

 各党は憲法審査会をできるだけ早く開催し、憲法改正に関する論議を深めていくべきだ。

 自民党下村博文憲法改正推進本部長がCS番組で野党を「職場放棄」と批判したところ、猛反発された。下村氏は謝罪して発言を撤回した≫(1119日付産經新聞

 言うまでもなく、憲法を変えたい与党と変えたくない野党という構図なのであるから、審査会を開こうとしない野党を「職場放棄」と罵(ののし)っても意味がない。野党が反発するのも無理はない。

 が、野党の姿勢も決して褒められたものではない。護憲ということであれば、憲法審査会が設置されている以上、なぜ憲法を変えてはならないのかをしっかり説明する義務がある。

 否、そんな消極的な話では不十分である。なぜ日本が「戦争放棄」という特殊な条項を持っているのか、そして日本だけがこの特殊な条項を持っていれば世界が平和になれるのか、日本は世界に向けて憲法9条の必要性を訴えていく必要はないのか、といったことをもっと積極的に議論していくべきである。

 戦後、進歩的文化人たちは、事の是非は別にして、日本国憲法の重要性、必要性を積極的に説いた。が、今の護憲派と呼ばれる人たちは、改憲を阻止することだけしか意識にはないかのようである。

 翻(ひるがえ)って、改憲派改憲の意義必要性を説明できているのかと言えば、明らかに不十分である。否、私に言わせれば、「改正」というよりも「改悪」ですらある。

 自衛隊の存在は合憲というのが現在の憲法解釈ということになっているが、であれば自衛隊保持をわざわざ憲法に明記する必要はない。憲法に明記しなければならないのであれば、それは自衛隊違憲存在である、ないしは、その可能性が高いということを自ら認めたことになる。このあたりのことをごまかしたまま憲法を改めるのは決して「正しい」やり方とは思われない。

 中身で言えば、憲法9条2項を残したまま、自衛隊保持を明記すれば「矛盾」が生じる。自衛隊は9条2項にいう「陸海空その他の戦力」に当たらないというこれまでの政府見解を「明記」するだけのことである。が、憲法に「明記」したからといって、元々の解釈の曖昧さが解消されるわけではない。

 否、そんなことよりもはるかに重要なのは、憲法を今回のような形で改正すれば、改正項目以外の米製憲法を初めて承認することになるということである。制定当時、日本は主権を剥奪された状態にあり、日本はこの憲法をGHQによって押し付けられたという歴史がある。

≪占領立法には、普通、政府の命令(ポツダム政令あるいはポツ勅という)によるものと、国会の議決を必要とする法律によるものとの二種類があるが、ともに占領中、最高司令官の隷属下にあって、占領軍の占領統治の必要上発する指示にしたがって、制定し、施行するものであることに変わりはない。

日本国憲法は、憲法を借称するけれども、占領軍が日本国の諸機関に指示し、国家組織の基本に関し規定せしめた占領管理法であることは明らかである≫(菅原裕『日本国憲法失効論』(国書刊行会)、p. 58)【続】