《安倍首相とプーチン大統領が会談し、1956年の日ソ共同宣言を「基礎」として平和条約交渉を進める、と合意した。
宣言は、大戦後の国交を回復させたもので、北方四島については歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島の引き渡しだけが約束されている。今回の合意は、2島の返還を軸にする意思を確認したといえる》(11月16日付朝日新聞社説)
主要紙の中で抜きん出て説得力のあるのが朝日新聞の社説であった。日頃朝日を叩いている私が言うのも変だが、今回の社説には二重丸をあげたいと思う。
《日本とロシアの間には、戦後70年以上にわたり平和条約がない。正常な隣国関係をつくるうえで、領土問題を含めた交渉に力を注ぐことは重要だ。
ただし、国境の画定と安全保障がからむ重大な国事である。その基本方針を変えるなら、国民と国際社会の理解を得るための説明を尽くす必要がある》(同)
まさにその通りである。他紙社説には<国境の画定と安全保障がからむ重大な国事>だという認識もなければ、<国民と国際社会の理解を得るための説明を尽くす必要がある>という指摘もない。
《外交交渉の過程で手の内を明かすのは適切ではない。だが少なくとも今回の合意は、日本政府の方針の変化を示している。歯舞、色丹を優先し、択捉(えとろふ)、国後(くなしり)は将来の課題とする「2島先行」方式に、安倍政権は踏み込もうとしているようだ》(同)
<外交交渉の過程で手の内を明かすのは適切ではない>というのも適切な指摘である。日本、ロシア、そして世界の世論が納得する形をいかにして作るのか、落とし所も問題であるし、落とし方もまた問題である。
が、今回の交渉を朝日社説子が「2島先行」と考えているとすれば、私はこれに同意しない。これまでも取り敢えず2島という話があったことは事実である。勿論、情勢次第で先に2島、後から2島ということもない話ではないが、むしろこの話は2島返還で落着させることに対する日本世論を和らげるための修辞と考えるべきであろうと思われる。つまり、最終的な落とし所は2島のみの返還ということになるのだろうと思われるのである。
そもそも4島返還という話はどこまで本気であったのか疑問である。言い換えれば、ロシアが呑むはずのない要求として4島返還という話があったのではないかということである。
解決不能な日露問題を日本に抱え続けさせることが、対露戦略上有益であるという米国の判断がこのようになさせしめたのではなかったかと疑われるのである。つまり、4島一括返還にこだわったのは日本というよりも米国の方だったのではないかということである。
米国は日本とロシアが友好関係を結ぶことを望まないし、ロシアの軍事的脅威を煽ることで、米軍を日本に駐留させる大義が得られるこということもある。つまり、北方領土問題は米国の思惑によって作られてきたところが大きいのではないかということである。【続】