保守論客の独り言

社会の様々な問題に保守の視点で斬り込みます

消費税率10%への引き上げについて(2)~「朝三暮四」~

今回の増税で最大の問題は軽減税率を導入しようとすることである。

 Simple is best なる真理は税制にも適用されるべきものであって、制度が複雑になればなるほど、一般庶民には理解出来ない、一部専門家の恣(ほしいまま)の制度になってしまうだろう。ただ、このようなことを言っても、もう手遅れの感があるのだけれども…

 さらに、制度が複雑になれば、これに対応するために「公務員」が増えることになる。役人の数は、仕事の量とは無関係に増え続けるという「パーキンソンの法則」に無用な根拠を与えることになってしまう。

 企業側の問題もある。複雑な税制に合わせたシステムを構築するのに多大な時間と費用が掛かってしまう。また、次のような馬鹿馬鹿しい問題にも対応しなければならない。

コンビニエンスストアなどで広がっているイートイン(店内飲食)への対応だ。

酒を除く飲食料品は軽減税率の対象だが、外食店内での飲食は対象にならない。最近、コンビニやスーパーで急速に普及しているイートインコーナーでの飲食は外食とみなされ、10%の税率がかかる。外食店でもテークアウトの場合は軽減税率が適用される》(10月15日付日本経済新聞社説)

 そのため、

《販売時には店内で飲食するかどうか客に確認する必要がある。コンビニの現場には日本語が得意でない外国人従業員もいることを考えれば、できるだけ簡便な仕組みを整えるべきだ。これを契機にイートインコーナーが廃止されるようでは消費者の利便性は損なわれてしまう》(同)

 例えば、テイクアウトすると言って商品を購入し、その後イートインコーナーを利用するというごまかしをどうやって防ぐのかといったことを考えるのはまったく生産的ではない。

 軽減税率を導入することで無駄な時間と費用が掛かり、そのことで実質的な税収増に繋がらなければ、そう遠くない未来において、さらなる増税も予想されるところである。そもそも軽減税率導入を主張したのは、低所得層を多く抱える創価学会を母体とする公明党とされる。が、これほど歪んだ人気取り政策はない。軽減税率が導入されれば、食料品が安く買えて助かるなどというのは目先の話でしかない。

 『列子』に「朝三暮四」という話がある。

 宋の国に、狙公(猿おじさん)という男がいた。猿が好きでたくさん飼っていた。猿の気持もよくわかるし、猿もまた狙公になついていた。狙公は家族の口かずまで減らして猿に食わせていたが、しだいに貧乏になってしまい、えさの栗を減らそうとした。だが、猿どもが自分のいうことをきかなくなってはと心配して、一計を案じた。

「朝は3つ、夕方は4つずつだぞ」

 こういうと、猿どもはみなたちあがっておこった。

「では、朝に4つ、夕方に3つならどうだ」

 案の定、猿はみなよろこんだ。

―知恵のある者は知恵のない者をこの手でまるめこむ。聖人が知恵で多くの愚人をまるめこむのも、狙公が知恵で猿をまるめこむのと同じだ。実質は同じなのに喜ばせたりおこらせたりする。

(『中国の思想 第6巻 老子列子』(徳間書店)、p. 195)

 軽減税率自体を問題とする論調はもはやどこにも見られなくなった観がある。が、これでいいのだろうか。【続】