保守論客の独り言

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自民党総裁選討論会(4) ~石破氏の攻め込み不足~

石破氏は言う。

「収益と付加価値はまったく別の概念なのであって、それは金利が下がり、そして労働者に対する分配率を下げれば、収益は上がるでしょう。しかし、大切なことは、いかにして付加価値を高めていくか。付加価値を高めて、安いからこれを買おうということがずっと続いていくと、人口減少下において絶対にデフレは止まらない。このお金を出しても、これを買いたい。このお金を出しても、このサービスを受けたい。それが付加価値の上昇というものなのです」(産経ニュース「自民党総裁選討論会詳報」(6)2018.9.14 13:05)

 残念ながら頓珍漢(とんちんかん)な議論になってしまっている。労働分配率が下がっているのは分子にあたる労働分配が下がったからではなく、分母にあたる付加価値額が大きくなった数字上の問題だけだという安倍氏の説明に対しこのように返しても意味がない。おそらく予(あらかじ)めこのような議論を準備していたのであろう。それを話の脈絡を無視して持ち出してしまったのだと思われる。

 「ですから賃金を抑制し、金利の支払いが減れば収益は上がるでしょう。しかし、付加価値は上がらない国内総生産(GDP)は付加価値の総和ですので、どうすれば付加価値が上がっていくか、それは働く人たちの能力をさらに高めていくことだ。そういうものに対する支援を最大限に行うことだ。その余地は中小企業、サービス業を含みます。地方にいっぱいあるので、東京にも、そのようなローカル経済は存在するのであって、大企業の収益がそのまま地方に回るということではない」(同)

 <どうすれば付加価値が上がっていくか>が論点ではなく、どうすれば庶民の懐が暖かくなるのかということでなければならない。<働く人たちの能力をさらに高めていくこと>は必要であっても別問題である。

 株価が上がることで企業収益が改善されてもそれは帳簿上のものであって庶民に還元され得るものではない。つまり、アベノミクスなる金融緩和政策によって円安・株高に持ち込んだのは果たして正解だったのかどうか、そのあたりの問題を論じるべきであるが、石破氏にはこの問題について指南するブレインがいないのであろう。

 一方、安倍氏は、

アベノミクスを進めていかなかったらどうだったかということです。6年前は行き過ぎた円高の中で日本企業がどんどん海外に出ていった。中小企業や小規模事業者はついていけないから、店を閉めるしかなかった。今よりも3割も倒産件数は多かった。正規雇用についていえば、2人の正社員になりたいという人で1人分の正規の雇用しかなかった。それが今、正社員になりたいという1人の就職者に対して、1人分の正規の雇用があるというまっとうな経済を作りだすことができた。今年の春、高校、大学を卒業した皆さんの就業率は過去最高です」(産経ニュース「自民党総裁選討論会詳報」(12)2018.9.14 14:49)

と成果を誇る。

 私は、日本が持続的に反映発展するためには、従来の輸出依存型産業から円高に見合った産業構造への変革、すなわち、「創造的破壊」(シュンペーター)が、たとえ「産みの苦しみ」があろうとも、必要であったと考えるが、これについては別に詳しく論じる機会があるだろう。

 総じて今回の討論会が「低調」であったのは、自民党のみならず日本の政治にとっても不幸なことだと思うけれども、その主犯はやはり挑戦者たる石破氏の攻め込み不足であったと言わざるを得ない。【了】