「企業は最高収益を上げた。年収1億円以上の役員の方々の数は最高になったと思っています。他方、先般発表された財務省から、企業の稼ぎの中から労働者の方々に回るお金の割合、『労働分配率』と言っています。43年ぶりの低水準だった。これは一体どういうことなのか」(産経ニュース「自民党総裁選討論会詳報」(6)2018.9.14 13:05)
という石破氏の疑問に安倍氏は次のように答えている。
「付加価値が大幅に増加している。14%、つまり分母が大きくなっています。つまり景気が回復していく。それは石破氏がおっしゃったように企業の収益が上がっていきます。付加価値の上昇によって景気回復していく局面においては、労働分配率は下がっていきます。しかし、人件費、給料も増えている。これは5%増えているんですが、それ以上に付加価値が14%増えていくことによって労働分配率が下がっています」(同)
「外部からの購入額に企業が新たに付加した付加価値額を合わせたものがその企業の売上高や生産高」ということになるわけであるが、付加価値額が大きくなったので労働分配率が数字の上で下がっただけだというのは説明になっているのか。役員報酬、従業員給与、賞与、福利厚生費、退職金等の「人件費」は5%増えているというのだけれども、多くの庶民は実入りが増えたという実感はないだろう。
公の討論ということで専門用語が用いられるために煙に巻かれたかのような印象を受けてしまうのだが、要は企業は儲かっているのにどうしてその利益が庶民に還元されないのかということである。
安倍氏は
「われわれは通常では行われないことですが、このデフレから脱却する困難な事象をみんなで一緒に行うために、企業に賃上げを要請し、今年も3%を要請し、多くの企業が3%引き上げてくれました。中小企業においては、これは賃上げです。5年連続で今世紀に入って、大企業においては5年連続、過去最高の賃上げが続いておりますし、中小企業においても過去20年で最高となっています。総雇用者所得は5年連続でプラスとなり、過去16年で最高となっています」(同)
と言うけれども、石破氏はこれに
「日本は社会主義国ではないので、政府がお願いして賃金が上がるというのは私はかなり異例の形なのだと思っています」(同)
と切り返した。政府が企業に賃上げを要請するのは社会主義政策ではないかという批判である。自由主義か社会主義かどのような政策の立場をとるのかは大きな論点となり得るが、石破氏はこの問題を掘り下げることはしなかった。私はこのあたりに石破氏の限界を感じてしまうのである。【続】